第20話 メルルは迷子
午前中はマリア達とトランプやゲームをしながらのんびり過ごし……。
お昼近くになったので、妹の私室でサンドウィッチで軽めの昼食を取る。
そっちの方が、兄妹水入らずできるというセバスの心遣いだ。
「そういえば、親父が帰ってくるの明日だっけ?」
「はい、そうですわ。時間はわからないですけど」
「まあ、あの親父のことだから急いで帰ってくるだろ」
「えへへ、きっとそうですね」
なにせ、マリアに激甘な親父である。
今頃、超速で帰っているに違いない。
その反面、俺にはすこぶる厳しい……違う意味で。
「俺は、明日は何処かに泊まろうかなぁ」
「あら、ダメですわ。お父様だって、お兄様に会いたいですから」
「俺は嫌なんだけど」
「たまには、家族で一緒がいいです」
「……はぁ、仕方ない」
たった一人の妹を寂しがらせるわけにはいかないよな。
頑張れ、明日の俺……潔く、ボコボコにされるとしよう。
食事を済ませると、何故かカエラが窓から入ってくる。
言っておくが、ここは二階である。
「あら、カエラ」
「何してんの?」
「はい? 窓から入りましたが?」
「見りゃわかる。なんで表からこないんだってこと」
「いえ、屋根の上で待機していたので」
「ああ、なるほど」
……まあ、一応護衛でもあるしな。
別に、叱るようなことじゃないか。
「ふふ、ありがとうございますわ。それで、何かあったのでは?」
「家の近くに、見知った顔があったので。ただ、うろうろしてばかりでよくわからないのです」
「ん? どういうことだ?」
「まあ、ひとまずついてきてください。あのままだと、目立って仕方ないので。お嬢様、申し訳ありませんが……」
「ええ、平気ですわ。お兄様、行ってきてください」
「わかった。とりあえず、行ってくる」
カエラについていき、俺も二階の窓から飛び降りる。
……人のこと言えなかった。
ひとまず、カエラについていき門から出ると……確かに見知った顔があった。
触りたくなるようなピンと伸びた白い耳に、フサフサの丸まった尻尾の美少女がいる。
制服ではなく、白いパーカーに野暮ったいズボンを着たラフな格好だ。
「あれ? メルル? 何してるの?」
「ア、アレク君! ど、どうして?」
「いや、どうしてはこっちのセリフだよ。あそこにあるの、俺の家だから」
「えっ? あのおっきな家が……ふぁ……すごいです」
自分でも忘れそうになるが、俺は公爵家の者。
その家の敷地面積は、二百坪を超えている。
だいたい日本でいうと、それなりの一軒家が四つくらいは入る計算だ。
「それで、こんなところでどうした? 知らないかもしれないけど、ここは貴族街と呼ばれる場所だから。通るには、兵士の方の許可がいるはずだけど」
「あ、あの、一応、王都の中なら自由にしていいって言われてて……だから、休みだし探検しようかなって。そしたら、ここの道が多くて迷子になってしまいました」
……ああ、そういえば立場的には国賓に当たる。
だったら、ある程度は自由に動けるのか。
それに人の暮らしを知ることが目的だったね。
「なるほど、それは良いことだね。ただ、どうして一人なんだい? 言ってはなんだけど、結構危ないよ?」
「うぅ……だって、寮には頼れる人もいないですし……案内してくれるような友達もいないです」
……寮生活は上手くいってない感じかな?
獣人は一人だというし、国賓扱いなのでおそらく個室だろう。
ただ、聞き捨てならないことを言ったね。
「おかしいなぁ、ここに友達がいるんだけど」
「……ふぇ?」
「あれ? 違った? 俺は友達になったつもりだったんだけど……というか、昨日言ってくれればよかったのに」
「そ、そ、そんなことないです! と、友達……えっと! 疑ってたわけじゃないんです! あ、えっ、あの、その……」
両手を頬に当てオロオロする姿はとても可愛らしい。
うむ、ずっと眺めていられる……紳士諸君ならわかってくれるね?
しかし、そうも言っていられないか。
「はい、深呼吸して。大丈夫、時間はあるから」
「は、はい……えっと、友達って言ってくれて嬉しかったんです。ただ、本当に誘って良いのかわからなくて……言おうとは思ってたんですけど、結局言えませんでした」
「ああ、そういうことね。メルル、そういう時は遠慮なく言っていいから。少なくとも、俺やトール……もちろん、セレナも嫌とは言わないよ」
「あ、ありがとうございます!次からは頑張りますっ」
両手を握ってフンスフンスしているが、これは怪しいなぁ。
気が弱いし、優しい女の子みたいだし。
こっちの方で、何か企画でも立てるとするかな。
「了解。それで、この後の予定は?」
「と、特にはないんです。ただ、寮にいてもつまらないなぁって。部活も今日はないって言われたので……」
「そっか。というか、いつから歩いてるの?」
「えっと、朝起きてご飯を食べてからです」
「いや、もうお昼過ぎなんだけど?」
「……あはは……迷子ですかね」
すると、クルルーと可愛い音がなる。
「……そりゃ、腹も減るよ」
「あぅぅ……」
だめだ、この子は放っておいてはいけない気がする。
……世話係だし、少しは面倒見ますか。
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