第19話 妹とのんびり

 俺が転生した記憶を取り戻してから、四日が過ぎ……。


 俺自身も、ようやく今の生活に慣れてきた。


 いや、慣れてきたというよりは……前世と今が一致してきたって感じかな。


 そろそろ、俺が朝早くに起きてきても変に思われないはず。







 ……はずなのにぃぃ!


 食堂に入ったら、マリアとセバスが驚愕の顔に染まってるし!


 どうしてだっ!? 最近は、変な顔をしなくなったと思ってたのに!


「セバスッ! お兄様が……! お熱を計ってください!」


「はっ! お嬢様! アレク様、もう一度ベッドに行きましょう。今日は、きちんとお休みしないと」


「お医者様を呼びますわっ!」


「ええいっ! 呼ばなくて良いって! 俺は正常だって!」


「そ、そんな……」


「妹よ、いい加減兄は傷つくぞ?」


 これがツッコミ待ちのギャグなら良い。

 しかし、とてもそんな感じには見えない。


「ですが……今日は、学校がお休みなのですよ?」


「……はい?」


「なのに、こんなに早く起きたので……びっくりしてしまいました」


 ……なるほど、そういうことか。

 確かに休みの日に、俺が早起きすることなどマリアが生まれてからないかもしれない。


「あれ? ……カエラ、なんで俺を起こした?」


「朝でしたので」


「いや、キリッじゃないから! 休みなら寝てたよ!」


「私は何も言ってませんよ? ただ、朝ですよと部屋に入っただけです。別に起きろとも遅刻するとも言ってませんが。先日にも、起こすなとも言われてませんし」


「ぐぬぬっ……!」


 確かに、勝手に学校だと勘違いをしてたのは俺か。

 この世界は水の日、火の日、風の日、地の日、闇の日、光の日の六日で回る。

 闇と光の日が休みに当たるが、週六というのが前世の俺の記憶と混同したらしい。

 やはり、慣れるにはまだ時間がかかるなぁ。


「あれれー? 私が悪いんですかねー?」


「オノレェェ……はい、俺が悪かったです」


「ふふ、ご主人様はえらいですね」


「へいへい。あー、どうしよっかな。今から寝るのも手ではあるけど」


「お兄様、それでしたら一緒に朝ご飯を食べませんこと? いつも、朝は慌ただしいですし……一人では寂しいですの」


 ……そうだ、うちには母親がいないし父親も留守がちだ。

 身内とはいえセバスとカエラは使用人だし……はぁ、前の俺をぶん殴ってやりたい。

 何をたった一人の妹を寂しがらせてるんだよ。

 しっかりしているとはいえ、まだ十三歳の女の子なのに。


「よし、わかった。セバス、悪いけど俺にも朝ごはんをもらえるかな?」


「わぁ……! 嬉しいですわ!」


「はっ、かしこまりました。それでは、今日はお嬢様の隣にお座りください」


 その言葉に従い、マリアの隣に座る。

 すると朝の話題から始まり、すぐに学校の話になる。


「そういえば、お兄様が変わったと中等部でも話題なんですよ?」


「そうなのか? ……変なこと言われてそうで怖い」


「ふふ、そんなことありませんの。目に力が宿ったとか、運動神経が良くてかっこいいとかですから」


「まあ、ご主人様は死んだ魚のような目をしてましたからね」


「誰が死んだ魚だ。せめて、生きてる魚の目にしてくれ」


 あれ? どっちも変わらない気が……まあ、良いや。

 無気力にだらだらしてたのは事実だし。


「ふふ……でも、私に紹介してという女の子もいるんですよ? 身分を問わずに優しいって……それは割と昔からですし」


「そうですね、昔から優しいですから」


「……カエラに言われると気味が悪いな」


「まあ、失礼ですね」


「ほんとですわ。今のは、お兄様が悪いですの」


「へいへい、わかったよ。俺が悪うござんした」


 その間に食事がやってきたので、俺は頬をかきつつパンを齧る。

 うん、相変わらずふわふわで美味い。

 本当に食事に関しては違和感がなくて助かる。

 ……何か理由があるのだろうか? 知らんけど。





 食事を終えたら、引き続きのんびりしながら紅茶を飲む。


 リラックスするために、セバスとカエラ以外の使用人は部屋にいない。


「ふふ、お兄様とお茶なんて久しぶりですわ」


「まあ、そうかもな」


「嬉しいですの」


 こういう風に、マリアと過ごすのは久々な気がする。

 俺は高校に入ってからは、特に自堕落になってたし。

 あの時は……自分の成人前と、王太子が結婚したことでストレスが溜まってたんだっけ。

 周りが好き勝手に言ったり、面倒事を考えたり……みんな敵に見えてた。


「……まあ、ちょくちょくお茶でもするか。マリア、できの悪いお兄ちゃんで悪かった。これからは、少しはまともになるからさ」


「まあ! セバスっ! 大変ですの!」


「はっ、お嬢様。すぐに医者の手配を……」


「では、私は旦那様に伝書鳩を……」


「だからやめてぇぇ!」


 これは流石に、ツッコミ待ちだとわかるので速攻で返す。


「楽しいですの」


「ええ、全くです。アレク様は愉快な方ですな」


「からかうのは私の趣味ですから」


「おい? 扱いひどくない?」


すると、マリアが俺の肩に触れる。


「ふふ、お兄様ったら……大丈夫です、お兄様は昔から自慢のお兄様ですわ……私はアレクお兄ちゃんが大好きですから」


「……へいへい、そいつは良かったよ」


「「「照れてますね」」」


「ハモるなし! ……ったく」


 どうにも照れ臭く、俺はぽりぽりと頬をかく。


 こういう時間も悪くはないと思いながら。


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