第18話 トール視点

 乗馬部にいくと言いつつも、俺は部長に早退を告げた。


 お付きの者から、すぐに帰るように言われたからだ。


 馬車に乗り自宅に着くと、すぐに父親の待つ書斎に案内される。


「父上、ただいま帰りましたよ」


「帰ったか。して、どうだ?」


 いきなり俺を呼びつけておいて、この態度である。

 いつだって、こちらの都合などお構い無しだ。

 俺は、この自己中心的なクソ親父が大嫌いだった。

 そんな態度のくせに小心者で、いつも自分の保身ばかりを考えてやがる。


「何がです?」


「馬鹿者が。無論、アレク王子のことだ。お前には、報告する義務があるだろう。そもそも、何故変化に気づかなかった?」


「そんなことを言われましても。別に、四六時中一緒にいるわけではないので」


 そもそも、俺にはそんな義務はない。

 確かに最初は命令されて近づいた……だが、俺個人の意思であいつと友達になった。

 そして、こいつとなら親友になりたいと思ったからつるんでいる。

 それをこのクソ親父は、今更何を言ってるんだか。

 多分、焦っているのだろうけど。


「この役立たずめ。なんのために、お前をアレク王子につけたのだ。兄であるクラウは、王太子であるネルソン様の懐に入っているというのに」


「別に良いんじゃないですかね。アレク王子は放っておけば。今更、王太子の地位は揺るがないかと」


「しかし、何やら様子が変わったという話だ。もしや、今更王位が欲しくなったのではないか? 再びセレナ様と近づき、なにやら獣人の姫とも仲良くしているとか」


 ……はぁ、本当に何もわかってねえ。

 あいつが、王位なんか望むわけないだろ。

 いや、この先はわからないが。

 まあ、個人的にはあいつが王位についたら面白いとは思うけど。


「そんな感じはしないですけどね。単純に、解放されたんだと思いますよ。今までのあいつは、鎖に縛られていたようなものなので」


「なに? どういう意味だ?」


「別に難しい話じゃありません。今までは、争いを起こさないために無能を装っていただけかと」


 真実はわからないが、そっちの方が信憑性がある。

 あいつは優しい性格をしているし、争いを好まないだろう。


「なんだと? あのアレク王子が、そんなことを?」


「さあ、わかりませんが」


 ただ俺は、次男坊ということで無能を装っている。

 下手な争いは、家臣や市民に迷惑をかけるだけだし。

 だから、アレクもそうなんじゃないかと思っただけだ。


「ぐぬぬ……どちらにつくべきか」


「今更、鞍替えをするのですか?」


「これも家のためだ。アレク王子は貴重な黒髪黒目にして第二王子、そして父親は英雄シグルドだ。今までの行動が芝居であれば、何かやらかすかもしれん」


 はぁ、相変わらず保身的なことで。

 まあ、この先の権力闘争に関わるから仕方ない部分もあるけど。

 ただ父の姉である第一王妃様を出しているので、十分な気もする。

 でも、王妃になった時点で家とは切り離されるからなぁ。

しかも、兄上をネルソン王子の妹とくっつけようとしてるし。


「まあ、自由にはなったかと。それこそ、恋愛面とかについても」


「うむ、そうなると……どうしたものか」


「別に様子見でいいかと。まだ王太子の子供も生まれてませんし、アレクも学生ですから。どうせ、一年くらいは動き様がないですよ」


「今動くのは危険か……よし、引き続きお前はアレク王子の側にいろ」


「まあ、言われなくても」


 さて……ひとまず、時間稼ぎはできたか?


 今は、この学生生活を楽しみたいからな。


あいつが楽しく過ごせるように、俺の方で手を回しておくか。


 ただ……もし、アレクがその気になったなら——俺が力になる。


 あいつは、俺が父親に頼まれて近づいたことを責めなかった。


 そして、生涯の友になってくれた。


 ならばその力になるのが、である俺の役目だ。









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