第21話 メルルは寂しい

 ひとまずメルルを引っ張っていき、自宅の中に戻る。


「わぁ……広くて大きいですっ! 玄関も広いし、天井も高くて……あれって、螺旋階段って言うんですか?」


「まあまあ、落ち着いて。あとで、案内するからさ」


「ふふ、私がきた時と似たような反応ですね」


「そういや、そうだったね」


 カエラも来た頃は驚いていたもんだ。

 なにせエルフ族というのは、質素な生活を送ることが美徳とされているらしい。

 普段は木の上や森の中に小屋を建てて、静かに暮らしている。

 さらには自然を大事にし、精霊信仰をしている。

 そりゃ、人族とそりが合わないわけだよね。


「これはこれは、可愛らしいお嬢さんですね」


「あっ、セバス。急で悪いんだけど、お客さんを入れても良いかな?」


 基本的に、家の長はセバスだ。

 俺は長男だが、父上はセバスに全権を委ねている。

 ……まあ、グータラ嫡男だから仕方ないね!


「ええ、もちろんですとも。はじめまして、お嬢さん。私の名前はセバスと申します。アレク様のご友人の方ですかな?」


「は、初めまして! はいっ! メルルっていいます!」


「ほほっ、元気なお嬢さんですな。旦那様よりミストルティン家を預かる者として、メルル様を歓迎いたします」


「あ、ありがとうございます!」


「それでは、お靴を脱いで上がってくださいませ」


「わかりました、お邪魔——ヒャァ!? い、痛いよぉ〜」


 急いで靴を脱ごうとしたからか、つんのめって転んでしまった。

 そういえば、初日も机に頭をぶつけていたっけ。

 どうやら、ドジっ娘属性もありそうだね。


「コホン……アレク様、そこは受け止めて差し上げないと」


「ええっ!? 俺が悪いの!?」


「そうですよー、きちんと手を押さえてあげないと」


「うぅー……ごめんなさい〜」


「へいへい、そうですね。ほら、立って。今度は、しっかり掴まってね」


「は、はいっ」


 こうして無事?にメルルを家にあげて、ひとまず応接室に連れて行く。

 まずはソファーに座ってもらい、リラックスしてもらう。

 セバスには飲み物と軽食を頼んでいるので、今のうちに話を聞く。


「頭は平気? 痛くない?」


「は、はいっ、身体だけは丈夫なので!」


「それなら良かったよ。嫁入り前の娘さんを怪我させるわけにはいかないし」


「よ、嫁入り……親交を深めるために人族でも良いのかな?」


 うん? 何やらもじもじしてる……トイレかな?


「メルル、トイ」


「違いますよ、ご主人様」


「……そうなの?」


「ええ、そうです。流石にお止めしました」


「そ、そうか……」


「ふぇ? どうしたんですか?」


「い、いや、なんでもない」


 すると、扉がノックされ……お盆を持ったセバスが入ってくる。


「セバス、ありがとう。マリアは?」


「お二人が出て行ってすぐに、お眠りになりました。今日はずっと起きて遊んでいましたから」


「そっか……無理させたかな?」


「いえいえ、とても楽しそうでしたよ」


「えっと?」


「あっ、ごめんごめん。とりあえず、食べようか」


 セバスがお皿をメルルの前に置く。


「ほほっ、それでは召し上がってください。時間がなかったので、ただのサンドイッチですが」


「い、良いんですか? その、お金とか……」


「お客様からお金をとっては、私が旦那様に叱られてしまいます」


「まあ、気にしないで良いよ。さあ、食べて食べて」


「……いただきます……美味しい……はぐはぐ」


 そしてあっという間に食べきってしまう。

 やはり、お腹が空いていたのだろう。


「ほら、紅茶もあるから」


「あ、ありがとうございます……うぅー」


 すると、彼女の目から涙が出てくる。


「ちょっ!? ど、どうしたの?」


「ご、ごめんなさい……学校はセレナさんやトール君、アレク君がいるから楽しいんです……ただ、寮生活がつらくて」


「虐められてもした? だとしたら、国際問題だけど」


「い、いえ! そういうわけではなくて……ただ奇異な目で見られたり、遠巻きにされたり……寮では誰とも話さず独りぼっちで。その学校との温度差っていうか……あっ! 別に皆さんのことを」


「大丈夫、わかってるから。騒がしいところから、物凄い静かになっちゃうから寂しいんだよね?」


「……はぃ」


 ……無理もないよなぁ。

 一人で知らない国にやってきて、違う種族と一緒に暮らして。

 なのに、そんな状態になって……ホームシックになっちゃうよ。








 その後、落ち着くまで待っていると……扉が勢いよく開かれる!


「まあ! お兄様が女性を連れ込んでますわ!」


「妹よ! 言い方っ!」


「しかも、泣いてますの! ……あら、お耳がついてますわ」


「え、えっと、あの……」


「はぁ……マリア、嬉しいのはわかるがまずは座りなさい。ちゃんと、自己紹介するから」


「はーい」


 そう言い、子供らしく口を尖らせた。

 うちに客人が来ることなど滅多にないから、テンションが上がっているらしい。

 ……色々と、うちは特殊だからなぁ。


「メルル、ごめんね。うちの妹のマリアだ」


「メルルさんですね、マリアと申します」


「は、はじめまして、マリアさん」


「それで、どうなさったのですか?」


「あぁー」


「アレク君、大丈夫です。私が話しますから……」


 そうして、メルルが今日までの出来事を話す。

 わけもわからないまま、突然知らない場所きたこと。

 緊張していたら俺やセレナが助けてくれたこと。

 ただ、寮生活が寂しいということを。


「……わかりますの!」


「……へっ?」


「お兄様! お出かけをしますわ!」


「お、おい? 妹よ?」


 すると、セバスが耳打ちしてくる。


「アレク様、ここはお嬢様に任せてみては?」


「ええ、私もそれがいいかと」


「……わかった」


 その言葉に従い、俺達は出かける準備をするのだった。

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