第22話 お出かけ

部屋着から着替え、馬車に乗り四人で出かける。


御者にはカエラが乗り、俺達三人は中に乗った。


「それで、何が目的だ?」


「こういう時は、みんなでお外に出て遊ぶのが一番ですの」


「えへへ、ありがとうございます。確かに、元々はそのために出かけましたから」


確かに、あと部屋にいたままじゃ良くはなかったかもしれない。

気分転換に出かけるというのはアリだね……俺の気持ちは別として。


「まあ、確かに。俺は出来るなら、ずっと引きこもっていたいたいけどね」


「それはお兄様くらいですわ」


「アレク君は、外に出るのが嫌いなんですか? 私は森で育ったので、あんまりじっとしてられなくて」


「そうだね。できれば、部屋でダラダラしてたい」


「まあ、お兄様ったら。メルルさん、お兄様ってば……」


二人が話すのを横目に見ながら、外を眺める。

メルルにとっても気分転換になるが、マリアにとっても良かったかもしれない。

この子は……ある意味で、俺よりも大変だから。





そして、マリアの指示で馬車は進み……目的地に到着する。


そこは庶民向けの、女性専門店の洋服屋だった。


「おい? マリア?」


「せっかく可愛いですのに、メルルさん勿体ないですの」


「か、可愛いですか?」


「そうですの。なんでも、人族のことを知りたいとか。だったら、まずは形から入らないと」


まあ、言ってることは間違ってないか?

何より、マリアが楽しそうだからいいか。


「メルル、お金はあるかな? 多分、うちの国から支給されてると思うけど」


「は、はい」


「それじゃあ、買い物をしてみようか? それが良い経験になるからさ」


「が、頑張りますっ!」


いつも通りに両手拳を握って気合……もとい、フンスフンスしている。

本人には申し訳ないが、小動物的な可愛さがあって素晴らしい。


「メルル様、大丈夫ですよ。私も最初下着を買うときは緊張しましたから……ご主人様に、いつ脱がされても良いように」


「きりっじゃないから」


「……ふえ〜!? そ、そ、それって……おふたりは、そういう?」


「ふふ、想像にお任せします」


「カエラさんや? 誤解を招くような言い方はよして? 何もないからね?」


「ヨヨヨ、私とは遊びだったのですね?」


「はわわっ……」


「やめいっ! メルル、こいつは放っておいて入ろう」


まったく、道の往来で変な噂が流れたらどうするんだ。

……まあ、メルルの緊張が解けたからよしとするか。

……そもそも、俺の評判はこれ以上下がる余地はなかったね!


「さあ、俺には洋服のことはわからん。マリア、悪いが見てくれるか?」


「はいっ、お兄様。メルルさん、こちらに来てくださいませ」


「うんっ」


そうして、二人仲良く洋服を見ているのを眺めていると……カエラが耳打ちをしてくる。


「ご主人様、良かったですね。お嬢様も楽しそうですし」


「ああ、そうだな」


俺以上に特殊な状況にいるのが妹のマリアだ。

元々身体が弱く学校に行けない日もあるし、それ故に家にいることが多い。

何より今現在、女性では黒髪黒目というのはマリアだけだ。

その容姿と相まって、神聖化というか……まあ、端的に言って友達があまりいない。

なので、自分自身を偏見の目で見ないメルルが新鮮なのだろう。


「私も家族だとは思われてますが、あくまでも使用人ですからね」


「俺も兄だが、やはり女の子とは勝手が違うし。メルルにとっても、マリアにとっても良かったかもね」


「最近はセレナ様もきませんし。昔は、お姉ちゃんと言って懐いてましたけど」


「仕方ないよ。セレナが行きたくても、親が許さないだろうし」


それに関しては、俺が全面的に悪い。

あちらの親子さんが、そう思うのも無理はないし。

マリアは、セレナに懐いていたっけ。

……これも、怠けていた俺の責任だな。

後日、挨拶だけでもしにいくかね。




しばらくそうしていると、二人が呼んだので向かう。


すると、メルルの手には黒のワンピースが、マリアの手には青のワンピースがある。


「お兄様! メルルさんにはどちらが似合いますか!?」


「ど、どうですか?」


「うーん……青のワンピースかな? 綺麗な白髪に、青が映えると思う。あと、前向きというか明るさが出るかなと」


「まあ! お兄様が建設的な意見が!」


「妹よ、聞いておいて酷くない?」


いや、気持ちはわかるけど。

以前の俺は、全く興味がなかったし。

前世の記憶を思い出したから、少しはマシになった感じだ。


「ふふ、ごめんなさいです」


「はいはい、良いってことよ。メルルはどっちか良い?」


「ぼ、僕は、青がいいです……」


すると、もじもじしつつも青を指差す。

結局、本人が良いのが一番だよね。


「なら決まりだね」


「もう、お兄様ったら」


「妹よ? 何故憐れみの視線を向ける?」


「知りませんの。セレナお姉様も苦労したでしょうね……」


「なんでそこでセレナの名前が出てくる?」


そんな会話しつつも、俺は白のワンピースを手に取る。


「お兄様? 誰かに送るのですか?」


「ああ、可愛い妹にな。黒髪のお前には、白が似合うだろうし」


「えっ!? お、お兄様が?」


「そんな信じられないような顔をするな」


確かに、そんなことはしたことないが。

ゲームやらおもちゃ、本なんかは買ってあげてたけど。

良く良く考えたら、可愛い洋服とかあげてもいいし。


「あ、ありがとうございます……大事にしますの」


「えへへ、良かったね」


「はいっ!」


どうやら、少しは打ち解けたらしい。


やはり、仲良くなるには女性は買い物が一番か。



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