第3話 今の家族
ドライヤーで髪を乾かし、改めて鏡を見てみる。
そこには黒髪黒目の、少し気だるげそうな美少年がいた。
身長170くらいで、細身の体型をしている。
「我ながら美少年だな……やべぇ、腹も出てないし違和感しかない。まあ、容姿も日本人に近いし、黒髪なのは助かったけど」
確か初代国王は異国から来たらしく、黒髪黒目だったとか。
今では血は薄れ、黒髪黒目はこの国において珍しい。
王家の者が、必ずしも黒髪というわけではないし。
故に、黒髪の人は特別視されたりする。
俺の場合は、先祖返りってやつだ。
たまに市政に生まれたりするけど、その場合は国が引き取ることになっている。
「それにしてもドライヤーかぁ……魔法もないし、あんまり異世界っぽくない。いや、記憶を思い出したから現代に近いのは助かるか」
この世界には精霊術や気といった現象はあるが、よく小説で見ていた魔法というものはない。
それに、精霊術を使えるのはエルフ族だけだ。
人族の国は、俺の知ってる現代に近い生活をしている。
普通に電気やガスに水道はあるし、少しは娯楽施設なんかもある。
「流石にゲーム機やスマホとかはないけど。まあ、贅沢は言えないね。とりあえず、日本人としての記憶を取り戻したから、その辺はめちゃくちゃありがたい」
他の種族は原始的な生活をしているらしいが、俺は人族に生まれて良かった。
とりあえず言えることは、そこまで日本人として暮らしてきた日々と変わりはなさそうだ。
「違うのは、人族以外の種族がいることか」
エルフ族、獣人族、竜人族、人族の四種類。
それぞれ国や領土を持ち、全く違う生活をしているとか。
そのために、色々と問題も多いらしい。
「……まあ、良いや。おいおい、記憶を擦り合わせていくか」
「本当に大丈夫ですか? さっきからブツブツ言ってますけど」
振り返ると、そこにはカエラがいた。
今更ながら、その姿をまじまじと眺める。
身長170に、足が長く見えるすらっとした体型……よくあるぺったんこタイプではない、ちょうど良いサイズ感のおっぱい。
見た目はキリッとした美女タイプなので、メイド服姿とのギャップが良い。
「……可愛いな」
「……ふぇ?」
「あれ? 声に出てた? まあ、良いや」
「ど、ど、どうしたんですか!? 本当に大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だって!」
あんまり近づかないでぇぇ! こちとら、女子に耐性がないんだから!
可愛いし、良い匂いするし……前の俺は、よくも平静でいられたもんだ。
「今まで、そんなこと言ったことなかったのに……は、鼻血出そうです」
「出すなし。というか、腹減ったから朝ご飯食べようよ」
「私にします?」
「しないよ!」
「あら、残念です。せっかく、その気になったかと思ったのに」
「へいへい。ほら、ささっと行こう」
カエラを伴い、俺は部屋のドアを開けて、食事をとる部屋に向かう。
すると、その部屋の中で妹であるマリアと目が合う。
俺と同じく黒髪黒目で、烏の濡れ羽色の長い髪はとても綺麗だ。
身長は小さく体も細いので、まるでお人形さんみたいに可愛らしい。
年齢は十三歳で、中等部に通っているんだっけ。
「……じ、事件ですの」
「へっ?」
「お、お兄様が、ご自分で起きて……いつも二度寝してお昼まで寝てるのに。しかも、着替えてらっしゃいますわ! セバス! これは夢かしら!?」
「はい、お嬢様。きっと夢でございましょう」
セバスは、この屋敷を取り仕切る執事長だ。
ここにはいない父上に代わって、幼い頃から俺達の面倒を見ている。
故に、俺達は頭が上がらない。
「いやいや、待て待て。マリアはともかく、セバスは酷くない?」
「おや、夢ではないと……お嬢様、事件ですね」
「やっぱり、そう思いますよねー」
三人が『うんうん』と頷きあっている。
使用人の態度とは思えないが、これがうちの家族の日常だ。
母親はマリアを生んですぐに亡くなっているし、父親は忙しくて中々帰ってこない。
他にもメイドや執事はいるが、基本的に屋敷で接するのはこの三人が多い。
「はいはい、俺が悪かったよ。カエラにも言ったけど、成人したし少しはね」
「まあ! お兄様が……お父様にお知らせを!」
「だ、旦那様に手紙を書かなくては!」
「良いから! ほら、お腹減ったから食べよ」
はぁ……以前の俺は、どれだけグータラしてたんだか。
周りの反応を見れば、一目瞭然である。
……これ、どこに行っても言われるんじゃね?
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