第11話 とあるメイドの独白
ふむ、やはり私の考えは間違ってなかったですかね?
「まだ、なんとも言えないですけど」
朝から様子がおかしかったので、校内にこっそり忍び込んで様子を見ていますが……。
「ご主人様は顔つきが変わりましたね。それに、行動なんかも。いや、こちらが本来の姿ということでしょうか?」
ちなみに今は、木の上から午後の授業を受けてるご主人様を観察しています。
ふふふ、私の精霊術は遠視なんかもできるので優秀なのです。
異端とはいえ、私もエルフの端くれではあるので。
「そういえば、私が引き取られてから……もう八年くらい経つんですね」
あの日のことは、今でも忘れていない。
◇
物心ついた頃、私はすでに一人ぼっちだった。
朧げな記憶は、親らしき人に捨てられたこと。
そして、すぐに生まれた里を追い出されたことくらい。
まあ、 別に恨んではいません。
幸いにしてエルフはほとんど食事を必要としませんし、赤ん坊の時に捨てられなかっただけ良しとしました。
今は幸せですし、何より殺されなかっただけマシですから。
ただ、それでも……当時は辛かった。
生まれた里を追い出された私は、数年の間は国のあちこちを転々としていた。
しかし何処に行っても、出て行けと言われる始末。
エルフは排他的な種族ですし、縄張り意識が強いから仕方ありませんが。
そして、私が行き着いたのが……遠く離れた場所にある、大きな砦だった。
その砦はずっと気にはなっていた。
ただ、そこに行くには妖魔や獣と出会う確率が高かった。
何より人族は恐ろしいと聞いていたから、近づかないようにしてたんだけど……。
噂ではエルフは奴隷にされて、酷い目に遭わされるとか。
ただ、ずっと寂しかったから。
誰でも良いから、私とお話をして欲しかった。
なんでも良いから、誰かに必要とされたかっただけ。
そして何とか砦にたどり着いた私は、そこで力尽き……次に目を覚ました時、見たこともない場所にいた。
ふかふかのお布団に、広い部屋……そして、目の前にはあの方がいた。
「あっ、目が覚めた? ごめんね、僕のベットで」
「あ……え……」
当時の私は言葉は知っていたが、誰かとまともに話した経験がなかった。
だから、びっくりして中々声が出ませんでした。
そんな私に、あの方は優しく微笑み……。
「ゆっくりで良いよ。えっと、エルフさんは水と果物を食べるんだよね? とりあえず、果物食べようか?」
「……はぐ……美味しい」
何もわからず、差し出されたリンゴを食べた。
その時のことは忘れていない……初めて、まともな味がしたから。
「良かった、ひとまず食べられそうだね」
「あ、え……わたし……ここ……は?」
「えっと、ここは人族が住むアルカディア王国だよ。君は国境の砦付近で倒れてて、それを見つけたうちの父親が引き取ったみたいだね。ここは、その父親の本宅で、僕はその息子ってわけ」
たどたどしく話す私に、あの方はゆっくり優しく説明してくれた。
わかったのは、私はここに住んで良いこと、衣食住の保障をしてくれると。
もう……独りぼっちではないということ。
「い、良いんですか? 私、銀髪だしエルフだし……」
「気にしない気にしない。さっきも言ったけど、うちで引き取ることにしたから」
「……ほんとですか?」
「うん、もちろん。それと銀髪に関しては気にしなくて良いよ。まったく、こんな綺麗な銀髪なのに……まあ、ここにはうるさいこと言う奴もいないからをしてね」
気がつくと、私は涙を流していた。
捨てられた時も、追放された時も泣かなかったのに。
ただ、嬉しかったんだと思う……ずっと気持ち悪いって言われてきた銀髪を褒められたから。
「あれ? 何か変なこと言ったかな?」
「ァァァ! うわぁぁーん!」
「わわっ!? ……よしよし」
あの方は私が泣き止むまでずっと、抱きしめて背中をポンポンとしてくれたっけ。
その時に嗅いだ優しい匂いと温かみは、今でも鮮明に覚えている。
◇
……早いもので、あれから八年ですか。
拾ってくださった旦那様には、もちろん感謝していますが……。
実際に世話を焼いて、私の相手になってくれたのは御主人様です。
言葉を教え、温もりも教え、愛すること、そして家族を教えてくれた。
だから、私はあの方の力になると決めた。
「といっても、本人がやる気なさそうだったんで、私も適当に過ごしてたんですけどねー」
それはそれで楽しく、毎日が充実していましたし。
可愛いマリアお嬢様と、セバスさんと、ご主人様とのんびりと過ごして。
その生活に私は満足してたんですけど……ご主人様のことはわからない。
「本人的には、どうだったんですかね? よく、俺はダラダラするのが仕事とか言ってましたけど」
それが本音かはわからないですが、あの方の立場ならそうなるでしょう。
優しい性格ですから、争いなどを好まないでしょうし。
「うーん……まあ、良いですか」
解放された今、ご主人様がこれから何をするかはわからない。
でも私のすることはただ一つ、あの方の望みを叶えること。
私の全て望みを叶えてくれたから。
「おっと、いけない。まだ叶えてない望みがありましたねー」
それは……ふふ、どうなることやら。
二人の女性に挟まれるご主人様を見ながら、私はニヤニヤするのでした。
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