第10話 友達になる

 昼飯を食べ終わったら、三十分くらい暇になる。


 食堂のスペースには余裕があるので、そのままお茶をすることにした。


「さて……んじゃ、メルルの質問に答えていくか。さっき、人族のことを知りたいって言ってたし」


「まあ、違うと思うが……良いぜ」


「わ、私も構わないわ」


 なぜか二人共、腑に落ちない表情をしている。

 ……まあ、良いや。

 また変なこと言って突っ込まれるのもアレだし。


「だそうだ。何か聞きたいことはあるかな?」


「えっと、アレク君とトール君、セレナさんはどういう関係なんですか? あと、家柄?っていうのがわからなくて……いや、一度聞いたんですけど……その時は緊張してて」


「なるほど……確かメルルは王族だったよね? なのにわからないのかな?」


 聞いてはいないが、そもそも留学生の条件が王族というか、その種族のトップの血縁関係者と決まっている。

 理由は簡単で、トップの血筋が他国を見ることで学び、それを国全体に広げる役目があるからだ。

 そして、国家間の友好を深める意味でも。


「えっと、僕たちの国は他国にわかりやすいように王族っていう形だけはあるんです。ただ、実際にはその時一番強い人が王様になるんです。だから、それ以外の人はみんな一緒っていうか……もちろん、強い人は尊敬されたり威張ったりするんですけど」


「なるほど……」


 血縁重視ではなく、トップは武力で決めるか。

 この辺も、人族とは違うな。

 ということは、同時期に来た留学生達も違う文化がありそうだ。


「へぇ、面白いな。うちの国は長男が継ぐのが決まりだし。もし、おたくみたいな国だったら……おっと、やめておくか」


「それが良いわね。メルルって言ったわね? うちの国でその話題は出さない方がいいわ」


「わ、わかりました」


 二人の言う通り、それは口に出さない方がいい。

 暗黙の了解とされているが、無能な者でも跡を継げるということだから。

 別にそれが悪いわけでもない。

 そうすれば、下手な争いは起こらないし。


「関係性の前に家柄を説明するね。一度で覚えられないと思うから、紙に書いてくよ」


 国王を頂点として、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵。

 公爵は王家の血が流れてる。

 侯爵は王家を除いたトップで、貴族達のまとめ役でもある。

 その下に伯爵、子爵、男爵がつく。

 騎士爵だけは継承権がない準貴族という扱いだ。


「そうね、大体合ってるわ」


「別に良いんじゃないっすかね。あんまり細かいこと言っても覚えきれないですよ」


「トールのいう通りだね。んで、俺は王家の血を引いたミストルティン公爵家の嫡男」


「俺はバルムンク侯爵家の次男坊だ。そんで、アレクとは昔からの悪友ってやつだ」


「私はアルカディア王家の第一王女よ。アレクとは……その、幼馴染よ」


「トールとセレナは従兄弟で、二人共俺とは幼少期からの友達って感じだね」


「わ、わわっ!? 皆さんお偉い方なんですか!? す、すみません、軽々しく口を聞いて……僕、お話しできるのが嬉しくて……これからは、様をつけて呼びますね」


 その台詞に、俺達は顔を見合わせて……思わず微笑む。

 おそらく、思ったことは皆同じだろう。

 この子は良い子で、仲良くなれそうだと。


「気にしないで良いよ。俺は無駄飯食らいって言われてるグータラ公爵家嫡男だし」


「俺も次男坊だし。というか、メルルちゃんに敬語を使わんと」


「ほんとよ。私も別に王位継承権のないただの王女だから平気よ」


「まあ、というわけで気楽にいこう。俺たち、堅苦しいのは好きじゃないんだ」


「そうそう、気楽が一番だぜ」


「ちょっと? アンタたちと一緒にしないでよ」


「「へーい」」


「えへへ、楽しい方達で良かった。あの……良かったら、僕と友達になってくれませんか?」


「「「とっくにそのつもりだけど?」」」


「ふえっ!? ……あ、ありがとうございます!」


 その後、少し気を許したメルルと供に楽しくお喋りをするのだった。




 ◇


 ……やれやれ、こいつはどうなるかね?


 昼食を食べ終えて教室に戻りながら、前を歩く二人を眺める。


 すると、セレナ様が俺に手招きをする。


「どうしたんすか?」


「トール、貴方はどう思う? その、アレクの変化を」


「そうっすね……ようやく、解放されたかなと」


 俺は知ってる………本来のアイツは頭もいいし、剣の腕も良い。

 あの通りグータラしているが、性格も良くてある意味で人気者だ。

 しかし、怠惰な姿は貴族たちには毛嫌いされている。

 俺はそれを……昔から、敢えてやっていると思っていた。

 それこそ、国を混乱させないために。

 王位継承権第二位の自分が、争いの種にならないように。


「やっぱり、貴方もそう思う?」


「まあ、グータラしたいのは本音でしょうけど。ただ、もう無能を装う必要もないっすから」


 皇太子が結婚して生まれる子が男子だとわかった今、あいつを縛るものはない。

 直系である王子が生まれれば、自動的にあいつは第三位継承権に移る。

 すぐには無理だが、次第に自由になれるだろう。


「ふふ、それはそうかも。ただ、その……私との婚約解消もそうだったのかしら?」


「……ああ、なるほど。貴女は叔母上の子である、第一王妃の長女っすもんね」


 ガイル国王陛下には二人の王妃がいる……というより、最低二人は娶る決まりがある。

 一人はうちから嫁に行ったカーラ第一王妃、もう一人が伯爵家出身であるレア第二王妃だ。

 パワーバランスから、第一は侯爵家から、第二は伯爵家から娶る決まりになってる。

 第一王妃からは二人の娘が生まれ、第二王妃から王太子が生まれている。

 王太子は人望があるとは言えないし……これだけで、面倒な匂いしかしないっての。


「そうなのよ。その、アレクが婚約解消を仕向けたんじゃないかって……そ、その、私とアレクが結婚したら強すぎるから」


「顔真っ赤ですけど? 結婚って単語だけで……」


「う、うるさいわねっ……!」


「相変わらず、素直じゃないっすねー」


 この方がずっとアレクのことを好きなのは知ってる。

 というか、よくフォローをしていたし。

 ただ、言う通り強すぎる面はある。

 父親は剣聖と呼ばれるレオン公爵、侯爵家出身の第一王妃長女が婚約者、そして本人は先祖返りである黒髪黒目……揃いすぎかっての。

あいつが婿に行って王位を継ぐことも、全然ない話ではない。


「むぅ……だってぇ……」


「その顔を見せてあげれば良いんじゃないっすかね? じゃないと、取られちゃいますよ?」


 前を歩く二人は、とても仲が良さそうだ。

 こちらにも、ほんわかした空気感が伝わってくる。

まあ、個人的には……セレナ様とわちゃわちゃやってる姿のが好きだが。


「でも……もう、解消されちゃったから」


「別に良いんじゃないっすかね? 王子が生まれたら、あいつも自由になりますし。その後で、アタックしていけば良いかと。そのためには、今のうちにどんどん攻めていかないと」


「そうよね……アレクは、私のこと嫌いになったわけじゃないって言ってたもん。 よし……頑張ってみるわ! アレク! 待ちなさい!」


「ちょっ!? 腕を組むなっ!」


「い、良いじゃない! え、えいっ!」


「う、腕がちぎれるぅぅ! あのな、お前は怪力なんだからなっ!」


「乙女に向かって怪力とは何よ!」


「えへへ、仲良しさんです」


「どこ見てんの!?」


 ……まあ、仲直りしてくれて何よりだ。


 俺は、この空気感が好きだったわけだし。


 メルルちゃんもいい子そうだし……こりゃ、楽しくなってきたぞ。


「トール! 見てないで助けてぇぇー!」


「へいへい、わかったよ」


 自分の将来のことを考えつつ、俺はアレク達のところに駆け寄るのだった。






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