第9話 知らずのうちに株を上げてしまう

 四人で話をしていると、あっという間に順番が近づいてくる。


 その間に、上に飾ってあるメニューを眺める。


 そこには記憶を取り戻した今でも、馴染みのあるものが並んでいた。


 トンカツ、唐揚げ、うどん、そば、カレーなど……。


 正直言って、不思議な点はあるが……理由はどうでも良いや。


 こうして、ある程度違和感なく過ごせることが出来るのだから。


「さて、今日はどうするかね。トールはどうする?」


「俺は天ぷらうどんにすっかなー」


「んじゃ、俺は唐揚げにするかな。メルルは何が食べたい?」


「え、えっと……唐揚げ?ってやつは美味しいですか?」


 ……そうだった。

 人族以外の種族は、あんまり料理に手を加えることを好まない。

 自然のままに、焼いたり煮たりすることが多いとか。

 もちろん、最近では少しずつ広がってはいるみたいだけど。


「うん、サクッとして美味しいよ」


「そ、それで、お願いします!」


「いや、自分で頼まないと」


「うぅ……緊張しますぅ。お金とかも、よくわからないですし……」


 あぁ、それもそうか。

 この世界は白銀貨、金貨、銀貨、鋼貨、銅貨、鉄貨、石貨となっている。

 日本円に例えると石貨幣から順に、一、十、百、千、万、十万、百万といった感じだ。

 ここは貴族と平民が一緒になって通う学校なので、割と良心的な値段になっている。

 学校の定食は基本的に、銅貨五枚から七枚の範囲に収まってるし。

 つまり、前世での五百円から七百円ってことだ。


「じゃあ、今回は俺がやるから見ててね」


「あ、ありがとうございます! 勉強します!」


 そう言い、両手拳を握って構える。

 まさしく、フンスフンスといった感じで可愛らしい。

 ……耳や尻尾に触れる日は来るだろうか?


「じゃあ、そういうことで」


「ちょっと? どうして私には聞かないの?」


「あん? いや、別に聞く必要ないし」


「むぅ……聞いてくれたっていいじゃない。何よ、その子ばかりに優しくて……こうして、食堂で一緒に食べるのだって初めてなのに」


 不機嫌そうな表情で、何やらブツブツ言っている。

 自分で注文出来るだろうに、何が気にくわないんだ?


「なんだって? 人が多いんだから、もっとはっきり言ってくれ。まったく、いつもは無駄に声が大きいくせして」


「う、うるさいわねっ! もういいわよっ!」


「へいへい、そうですか。どうせ、トマトクリームパスタかジェノベーゼパスタだしな」


「……へっ? な、なんでわかるのよ?」


「ん? そりゃ、わかるだろ。大体、いつもその二つだし」


「そ、そう……何よ、見てたんじゃない……」


 今度は顔を赤くして、何やらブツブツ言っている……ほんと、よくわからん。




 その後、オーダーをしてお金を支払い、トレイを持って四人掛けのテーブルにつく。


 俺とトールが並んで座り、斜めにはセレナ、目の前にはメルルが座る。


「それじゃ、いただきます」


「いただきます? なんだそれ?」


「初めて聞いたわね」


「あっ……」


 しまった、この国には頂きますという文化はなかった。

 俺がどうしようかと考えていると、目の前のメルルが身を乗り出してくる。


「ア、アレク君! もしかして、獣人の方と食事をしたことがあるの!?」


「え、えっと……」


「それは、獣人に伝わる食事の作法なんです! この国きて、初めて言う人を見ました!」


 ……なるほど、獣人族は使っている作法だと。

 悪いけど、それを言い訳に使わせてもらおう。


「いや、食事をしたことはないよ。ただ、留学生がくるって聞いてたからね。あちらの国のことを勉強しなきゃとは思ってたから。丁度世話役になったし、こっちの方がメルルも良いかなって。俺がやってれば、メルルも変に思われないでしょ?」


「わぁ……う、嬉しいです! その……こっちにくる際に、それは変に思われるからやめた方がいいって言われて」


「そう? 別に変じゃないと思うよ。俺の考えだけど、多分感謝を込めてって意味なんじゃない? 作ってくれた人や、食材に対してとか」


「はいっ! そうなんです! えへへ……この国に来て、今日が一番嬉しいです」


「それなら良かった。気にしないで良いから、普通にして良いからね」


「ありがとうございます! えへへ——いただきます!」


 よっぽど嬉しかったのか、おどおどした感じもなくハキハキと言った。

 ふぅ、どうやら上手く誤魔化せたみたいだ。


「へぇ、よく知ってたな? いや、元々知ってたか……ったく、スペアは苦労するわな」


「ん? 何がだ?」


「ほんとよ。多分、元々知ってたんでしょ? やっぱり、私の予想は合ってたんだわ」


「いや、だから……」


「アレク君! この唐揚げってやつ美味しいです!」


 ……まあ、良いや。

 元々知ってたのは事実だし。


「でしょ? そういえば、獣人族って食事はどうしてるんだい?」


「えっと……大人の人達が狩りに行って、それをみんなでワイワイ食べる感じです。ただ年功序列だし、強い人から順にって感じです。だから、弱いと全然食べられなくて……」


「なるほど、人族と大分違うと。ただ、ここでは特に気にしないで良いからね」


「あ、あの、僕にもアレス君……人族のことを教えてください」


「ん? まあ、世話役だしね」


「え、えっと……はぃ」


「やれやれ、隅に置けない奴だぜ」


「むぅ……今日は許してあげるわ」


 ……よくわからないが、どうにか切り抜けたっぽい。


 前世の記憶か……今後も、発言には気をつけていかないとなぁ。




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