幕間 長い1日を終える
その日の授業が終わり、放課後になる。
メルルは初日ということで、先生に呼ばれて先に出て行った。
セレナは相変わらず人気者なので、クラスのみんなに囲まれてる。
トールはトールで、用事があると言ってすぐに帰った。
何か気になることを言っていたなぁ……『悪い、すぐに帰るわ。面白いことになりそうだし……こりゃ、色々と準備が必要だ』とか。
なので、ぼっちの俺は必然的に一人で帰ることに……。
別に悲しくなんてないんだからね!? ……さっさと帰るか。
そして、俺が学校の校門から出ると……いつも通りに迎えの馬車が待っていた。
「御主人様、お疲れ様です」
「ん? どうしてカエラがいる?」
行きもいなかったし、俺の送り迎えはカエラの仕事ではない。
普段は執事の方と兵士さんが、交代で御者と護衛を務めている。
「いえ、少し散歩をしてたので」
「いや、散歩って……仕事はどうしたんだ?」
「よよよ、私には休みなど必要ないってことですか?」
そう言い、わざとらしく涙を拭うふりをする。
本当に変わったよなぁ……まあ、良いことだな。
「んなことは言ってないし。とりあえず、帰るか」
「ええ、そうですね。では、隣に座ります?」
「……そうするかね」
俺自身も気分転換になりそうなので、御者の方に座る。
そして、カエラが隣に座り……中世ヨーロッパに近い街並みの中、ゆっくり馬車が進んでいく。
ちなみにカエラがいる場合、御者も護衛もいらない。
こんなんだけど、そのスペックが高さは折り紙つきだ。
短剣を使った戦闘術は見事だし、精霊術で隠密系の仕事もできる。
前の世界で言うところの、女クノイチって感じかも。
「随分とお疲れの様子ですね?」
「あぁ、なんか留学生の面倒を見ることになったよ。まあ、悪い子じゃないから良いけどね。あと、セレナに絡まれたり……」
「ええ、知ってます」
その言葉に被さるように、民の方から声がかけられる。
俺は学校をサボって良く出かけているので、割と顔が知られている。
何故かはわからないが、結構人気があったり……舐められてるのかもだけど。
「あっ! アレク様だっ!」
「こんにちは!」
「今日は学校行けたんですね!」
「こりゃ、大変だっ! 明日は雨が降るぜ!」
「嫁さんに言わないと! 皆の者! 急げっ!」
「ちょっと!? 俺、一応公爵家嫡男だからね!?」
「「「知ってますが?」」」
「ぁぁ! ひどい! 後で店に行ってやる! 覚えてろよ!」
そういうと、わざとらしく蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
都市の中を通ると、大体こんな感じになる。
いや、別に良いんだけどねー。
「ふふ、相変わらず愛されてますね?」
「そうなの? ……まあ、なら良いんだけど。それより、さっきなんて言った?」
「いえいえ、何でもないですよー。ただ……面倒ごとを避けてきた御主人様にしては、中々珍しい行動かなと」
「まあ、今朝も言ったけど……少し真面目にやろうかなと思って。こんなんでも、公爵家嫡男だしね」
王家というのは、国民の税金で生かされてる。
前の俺は気づけなかったが、前世の記憶が蘇った今ならわかる。
ならば、それを還元するくらいはしないといけないよね。
何より、元の俺は庶民だから……そういうことしないと、肩身が狭くなっちゃう。
「あらあら……」
「変かな? その、いきなり変わって……」
「いえ、そんなことはないですよ。私からしたら、変わりはないですから。相変わらず、優しい方だなと。結局、獣人の子を放って置けなかったのでしょう?」
「……別に。ただ単に、単位が欲しかっただけだよ」
「きっと、国境にいる旦那様も喜びになると思いますよ」
「そうかね? 気合い入れて、ビシバシされそうだ……やっぱり、このままで……」
うちの父親は超怖い。
見た目も厳ついし、ずっと不機嫌な顔をしているし。
俺はよく剣の稽古で扱かれたものだ。
ただ不思議と……だらだらしてることに関しては、怒られたことがない。
「ダメですよ、単位も落としてしまいそうなんですから」
「はぁ、頑張るしかないか……ふぁ」
「着いたら起こしますから寝てくださいね」
その言葉に甘え、背もたれに身を委ねる。
転生した記憶を取り戻したこと、今日会った色々な出来事により……すぐに意識が遠ざかっていく。
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