二章 学園生活

第12話 慌しい朝

翌日の朝、俺が目を覚ますと……。


「ん? なんか良い匂いする……それに柔らかい?」


「にへへ……ご主人様ぁ……やぁ、そこはダメですぅ……」


隣にはカエラがいて、腕を回して俺に抱きついていた。

当然、その意外とあるお胸さんがお腹付近に当たるわけで……いかん!これはいかーん!

このままでは、俺のほとばしるパドス(息子)が目覚めてしまう!


「ダメじゃ……ねぇ!」


「あいたっ!? な、何するんですか!? 幼気な乙女の頭を叩くだなんて!」


「何するんだはこっちのセリフだよっ! 何してんの!?」


「いやぁ〜ご主人様が目を覚まさなかったので添い寝しちゃいました……てへ」


「てへ……じゃないし! というか起きなかった……って! 寝坊じゃん!」


「だから、そう言ってるじゃないですかー。まあまあ、そんなことより私としっぽりしましょうよー」


「ええいっ! どけぃ!」


引っ付くカエラをひっぺがして、ベットから出る。

……別に残念だなんて思ってないんだからっ!


「よよよ……昨日はあんなに激しかったのに」


「何言ってんの? さっき添い寝だって言ったじゃん?」


「あら、そうでしたね。せっかく既成事実を作ろうと思ったのに。あっ、次回からは夜のうちから——あたたっ!?」


俺は黙って顔を鷲掴みして、アイアンクローをかます。

女性に暴力は良くないが、これは仕方ないことである。


「夜のうちはやめような? これはお願いじゃなくて、命令だからな?」


「わ、わかりましたよー」


「ったく……だから、遅刻だって! ほら! 服を脱ぐからさっさと出て!」


「はーい、仕方ないですねー」


きちんと部屋を出て行ったのを確認し、俺はシャワールームに駆け込むのだった。


シャワーを浴びて、急いで着替えたら……食事処に向かう!


中に入ると、すでに食事を終えてお茶をしているマリアがいた。


「あら! 寝坊とはいえ、二日連続でお兄様が起きてきましたの!」


「マリア、おはよう。そして、驚き過ぎだから」


「まさか、こんな日が来ようとは……亡き奥様も喜んでおりますね」


「セバス? 起きたくらいで泣かないでくれない? というか、悪いけどパンとスープだけくれるかな? このままだと、遅刻しちゃうから」


「お、お兄様? まさか、遅刻をしないために急いでいるのですか?」


「いや、妹よ。だから、そうだって」


「た、大変ですわっ! お父様に……」


「なんと!旦那様に……」


「だ・か・ら! それはいいからっ! 早くしてぇぇ〜!!」


その後、二人から信じられないような視線を浴びながら急いで食べ進める。

いや、言いたいことはわかる。

そして、二人がふざけてないことも。

本当に、ただ驚いているのだろう。

俺が遅刻をしないために急いでいることなど、生まれてこのかたないことだし。


「明日も起きてきたら本物ですわ」


「ええ、そうですね。その時は、正式に旦那様にお手紙をお送りしましょう」


「だから、それは良いって。どうせ、来週辺りには帰ってくるんでしょ?」


パンをスープで流し込むという、公爵家嫡男にあるまじき行動をしながら話をする。

……だが、普段の行いからか注意されることはない。

この辺りは堅苦しいのは苦手なので助かりはする。


「はい、そう仰ってましたわ。お兄様の成人のお祝いにも出れてませんから」


「旦那様も、お忙しい方ですから」


「ああ、わかってるよ。父上は国境を守る要の人物だからね」


剣聖と呼ばれる父上は、エルフの国ユグドラシルと獣人国の国境付近を守っている。

他種族の侵攻からというよりは、が入り込まないために。

これ以上彼らを刺激すると、戦争になりかねないし。

あとは、妖魔を倒すために出払っている。

妖魔とは人ならざる者達の総称で、全ての人類の敵である。

どこからともなく現れて、人々に襲いかかるとか。





食事を終えて時計を見ると、馬車ではどうみても間に合わない時間だった。


中等部のマリアと違い、高等部は離れた位置にある。


なので、妹はまだ優雅に紅茶を飲んでいるし。


「アァァァ! 二人が邪魔するから!」


「あら? お兄様が寝坊したのがいけませんこと?」


「ど正論だねっ! お兄ちゃんはぐうの音も出ないよっ!」


「走っていけば間に合うのではないですか? アレク様が本気を出せばの話ですが」


「ええ、そうですねー。気を使えば良いのでは?」


「はぁ……やっぱり、そうなるのか。いや、アレ疲れるんだよなぁ」


前も言ったが、この世界には明確な魔法というものはない。

ただ精霊術と、気を使った不可思議な力は存在する。

そして人族には、その気を扱うことができるが……これはかなりの体力を使う羽目になる。

体の内側にある力を使うので、当然といえば当然の話だ。


「では、遅刻をしますか?」


「……いや、走っていく。ここで遅刻したら、たまたま昨日だけ来たという印象を与えてしまう」


「それなら、私が護衛として並走しましょう」


「よし、頼んだ……セバス! マリア! 行ってくる!」


「はい、行ってらっしゃいませ」


「いってらっしゃーい!」


二人の返事を背にして、俺は廊下を走り抜けるのだった。


……良い子のみんなは廊下は走っちゃダメだからねっ!

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