第40話 第二王妃と王太子
その後は比較的落ち着いて、普通にお茶を楽しむ。
セレナは学校での生活のこと、新しい友達ができたことなどを嬉しそうに報告している。
セレナ自身も、こうしてのんびり話せるのは久しぶりみたいだな。
第一王妃であるサラ様は、こう見えて忙しい方だ。
王妃としてパーティーに参加したり、有力者達と交流を深めたり……。
時には国王陛下に代わって行事に参加したり、国民の生活を視察したりもしてるらしい。
「獣人の女の子……メルルさんね〜。それじゃあ、今度連れてきてね?」
「良いの? その、色々と……」
「ええ、むしろ貴女が率先して連れてこないと。第一王女である貴女が仲良くしてたら、王城にいる方々も安心するわ〜」
「そうよね……うんっ! 連れてくるわ!」
「そうすれば、陛下の手助けになるし」
今の他種族との交流は、今の国王陛下が推進している。
それまでは不可侵条約的なものを結んで、互いに干渉しない取り決めだった。
しかし、昨今の妖魔の出現や、資源の枯渇問題などにより、話し合いを持ちたいと。
そして……彼らが一目置いている親父が生きているうちに進めたいと。
「はぁ、大変っすね」
「あらら、ダメよ〜。アレク君も他人事じゃないんだから」
「いやいや、俺は大人しくしてますよ。俺が動いても、良いことないですから」
「ふふ、そんなこと言って……まあ、いいわ〜。多分、勝手に巻き込まれそうだし。貴方は、なんだかんだで優しい子だから」
「……不穏なことを言わないでくださいよ」
「だって、もうそろそろ将来のことも考えないと〜」
「……はい、それはわかってます」
俺としては、このままのんびり過ごしたいのだ。
……しかし、将来かぁ。
記憶の取り戻す前の俺は、特に考えてなかったなぁ。
ただ、波風が立たないように静かに生きていければ良いと。
正直なところ……今の俺は、どう思っているのだろう?
一頻りお話を楽しんだ後、サラ様は公務があるので部屋から出て行った。
「ん〜久々にお話できて楽しかった」
「それには同意だな」
「ほんと? ……それなら良かったわ」
どうでもいいけど、伸びをすると……うん、制服のボタンが弾けそうですね!
……そういや、この世界には水着の授業があったな。
同じように四季もあるし、本当に不思議な世界だなぁ。
「それじゃ、とりあえず帰るとするか」
「そうね。本当なら、妹のルナも貴方に会いたかったんだけど」
「今は留学してるんだろ? 確か、竜人族のところだっけ?」
「ええ、そうよ……あの子、大丈夫かしら?」
メルルがうちに来たように、当然うちからも他国に留学生は派遣している。
言い方は悪いが、人質交換のような意味合いもあるし。
お互いに手厚くもてなしをしないと、双方にとって困ることになる。
「大丈夫だろ、あの子はお前と違うし。大人しいけど、賢くて良い子だし」
「どういう意味よ!?」
「そ、そういうとこだ! すぐに手を出すんじゃない!」
「おかしいわね。この王族しか入れない場所で騒がしい輩がいるなんて」
「ええ、全くですね。やはり、程度が知れてますか」
……しまった、さっさと出て行くべきだったな。
嫌な奴らと顔を合わせてしまった。
かたや豪華な赤いドレスに身を包んだ、膨よかな体形で性格の悪そうなおばさ……ゲフン。
もう一人は、青い紳士服のようなものを着たぽっちゃりした卑屈な男性……ゲフン。
つまり……第二王妃カーラと、王太子のネルソンの二人である。
「ネルソン王太子殿下にカーラ様……」
「ここはいつから騒いで良い場所になったのですか? 全く、嘆かわしいことですわ」
「本当ですな。ここは選ばれた者しか入れない神聖な場所だというのに」
「嫌ですわ、女性なのに騒がしくて。もっとお淑やかにならないと」
「ええ、全くです。女性は静かなのが一番ですね」
「っ……す、すみま」
「これはこれは、お二人さん……どうもです」
セレナが慌てて頭を下げようとするので、それを遮る。
そんなつもりはなかったのに、自然と身体が動いてしまった。
「おやおや……いたのですね、アレク殿」
「スペアが、こんなところに何の用なのだ?」
「別に大した用事はありませんよ。ただ単に、第一王妃様にご挨拶にきただけです」
「あら? 確か婚約解消をしたとか……」
「うむ、殊勝な事かと思っていたが……」
「別にあなた方には関係ないでしょう。それより、ささっと退いてくれませんかね?」
「なっ!? わ、私を誰だと思って……この第二王子風情が」
あぁー、ヤダヤダ。
前の世界にもいた、こういう勘違いしたおばさん。
結婚した相手が偉いから、自分も偉くなった気でいる人。
元はといえば、この人のせいでボンクラ王太子になっちゃったんだし。
多分、王太子自体は……うん、アレがアレでアレだけどクソじゃないはず。
「そちらこそ、誰に口を聞いている? 俺は王位継承権第二位にして、ミストルティン公爵家嫡男のアレク-ミストルだ。この国において、俺にそんな口がきけるのは国王陛下ただお一人だ。伯爵家から嫁いできただけのおばさんに、何か言われる筋合いはない」
「な、なっ……」
「そもそも、ここは王族専用スペースだ。我々にも好きに使う権利がある。どうしようが、個人の自由なはず。むしろ外からきた貴女こそ、我々に気を使って欲しいくらいだ」
「っ〜!!??」
「しかし、我々も騒がしくしてしまったのは事実だ。それでは、これで失礼するとしよう。王太子殿下もお元気で……セレナ、いくぞ」
「えっ? は、はぃ」
俺は呆けてるセレナの手を引き、その場を後にするのだった。
自分でもよくわからない苛立ちに戸惑いながら。
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