第31話 不条理
そんな物思いにふけていると、運動場へ到着する。
早速着替えて準備を済ませ、俺はテニスコートに立つ。
相手はメルルで、その補佐としてセレナが付いている。
「アレク〜! 良い!?」
「ああ、いつでも」
俺は少し腰を落とし、両手でラケットをくるくると回す。
……別に意味はない。
ただ、かっこいいかなと思っただけである……みんなはわかってくれるはず!
「メルル、思いっきりやりなさい」
「い、良いんですか?」
「ええ、平気よ」
「わ、わかりました——いきます!」
くると思った瞬間——気がつけば、球は俺の真横を通り過ぎていた。
「……はい? 速すぎじゃない!?」
「ふふん。そりゃ、そうよ。私がみっちり教え込んだもの。今では、期待の新人さんといったところね」
「えへへ、セレナさんの教え方が良いからですよ」
「いや、貴女の実力だわ。まさか、獣人の能力がここまで高いなんて」
確かに、今の球のスピードは異常だ。
俺の高校に150キロを投げる投手がいたが、そのスピードより明らかに速かった。
凄い人は二百キロを超えるとはいえ、女子とは思えないスピードである。
「す、すごいなぁ」
「あんたも本気を出したら?」
「……よし、やってみるか」
「あら、珍しい」
「言ったろ……少しやる気を出すって」
「それじゃあ、いきますよっ!」
高いトスを上げ、そっから弧を描くようなサーブが飛んでくる!
俺は球が打つ方を予測して、その着地点に向かい跳ね返す!
その打ち返した球は、メルルの反対の方に行き、こちらのポイントとなる。
「ふっ、どんなもんよ」
「むむっ……! 悔しいです!」
「いや、そこは顔をしかめて……悔しいですっ! ってしないと」
「ふえっ?」
「いや、すまん」
いかんいかん、ついつい前世の癖が出てきてしまう。
まあ、お陰で球は返せたんだけど。
伊達にテニスの王子○は見てないぜ! 王子違いだけど!
「さすがは、腐っても英雄シグルドの息子ね。そうよ、昔から生意気だったわ。何でも器用にこなして……なんか、私も腹が立ってきたわ」
「おい? 人を腐ったとかいうなし。というか、どうしてお前までラケットを構えてんの?」
とても嫌な予感しかしないんですけど?
なぜニヤニヤしているのですかね?
「ふふ、なんでかしらね? メルル! 手加減はいらないわっ! 二人でやるわよ!」
「い、良いですか?」
「もともと、男子と女子では力に差があるのよ。それくらいのハンデはあって良いわ」
「抗議します! それは男女差別です!」
「うるさいわねっ! 大人しくやられなさい!」
「うひぁ!?」
次々と玉が飛んでくるので、必死に返していく。
「メルル!」
「はいっ!」
「くっ!?」
あちらは交互でいいので、余裕で返してくる。
俺は必死にコートを走り回り、ひたすら球を返すのだった。
俺は爽やかなスポーツをしたかったのに……どうしてこうなったァァァァ!?
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