第59話 校外学習その十一
先程までの緩やかな空気が一変して、緊張状態になる。
辺りの兵士たちが慌ただしく動き、生徒達に動揺が走る。
そんな中、俺の頭の中ではこの先どう動くかが自動で行われていた。
多分、面倒なことになるとわかっていても。
それが、曲がりなりにも王族として生を受けたアレクの役目だと思うから。
「セレナ! トール! 俺達も出るぞ! 幸い、俺達はそこまで疲れていない」
「ええっ! もちろんだわっ!」
「へっ、その言葉を待ってたぜ」
すると、メルルが俺の前に出る。
「ぼ、僕も連れっててください!」
「いや、ダメだ。メルルに何かあったら、それこそ国際問題になるよ。むしろ、一番奥にいて欲しいくらいだ」
「でも、アレク君だって……」
「俺には代わりはいる。何より、俺はこの国の王族だ。民が危険に晒されているならば、戦うのも仕事の一つだと思う」
「で、でも……! 僕だって、アレク君達大事です!」
俺が言い返そうとすると、ふとトールが肩に触れる。
その目は、落ち着けと言っていた。
「まあまあ、良いんじゃね? どうせ、この感じだと勝手に来ちゃうぜ」
「……それはそうだけどさ」
「私達と一緒にいればいいじゃない。その代わり、無茶はダメよ?」
「はいっ!」
ここで考えてる時間が勿体無いか。
まったく、シリアスは苦手なんだけどなぁ。
仕方ない、やるとしますか。
「……わかったよ、一緒に行こう」
「あ、ありがとうございます!」
「というか、多分俺達も怒られるだろうし」
「ははっ! 間違いないなっ!」
「確かにそうね。でも、じっとしてなんかいられないわ。私だって、この国の王女なのだから」
「んじゃ、みんなで怒られに行くとしますか」
三人が頷き、俺達はノイス先生が向かった方向に行く。
すると、そこには化け物の群れがいて、兵士達と戦闘を繰り広げている。
なるほど……妖魔というのは、俺の知識で言うところの魔物のことだったのか。
そこにはゴブリンやオークとしか思えない生き物がいた。
「皆さん!? 何をしに!?」
「決まっています、戦うためですよ」
「何を……早く下がってください。これは、私達の責任です」
「そもそも、先生方に死なれたら次は俺達の番ですし。だったら、こっちの方が効率は良くないですか?」
「そうすっよ。このまま、ここで見てるくらいなら戦った方がマシですね」
「そうですわ!」
「はいっ!」
「それはそうですが……ふふ」
こんな状況だというのに、ノイス先生が穏やかに笑っている。
「えっ、えっと?」
「いえ、すみません……若き日のシグルドと私達を思い出しました。そういえば、あの時もシグルドが命令違反をして……血は争えないということですか」
「そんなことが?」
「ええ、もう忘れかけていた記憶です。校外学習中に妖魔の群れが襲ってきまして、私とシグルドは共に戦場を駆け抜けたのです。今思えば、あれが初陣でしたか……いやはや、歳はとりたくないものですなぁ」
「……それで、俺達は何をすれば良いですか? 邪魔だけはしたくないので、指示には従うつもりです」
「助かります。では、あの数の多いゴブリン共をお願いできますか? 一匹一匹は大したことはありませんが、油断だけはしないでください……特に女性の方は」
そうだった、例に漏れず奴らは他種族の雌を苗床とする。
エルフだろうが竜人だろうが人族だろうと関係ない。
そして、男は食糧として扱われることに。
それもあり、奴らは人類の敵と呼ばれている。
「わかりました。セレナとメルルは俺が守ります」
「「ふえっ!?」」
「ククク、大きく出たな。んじゃ、俺はお前を守るとするか。それが、俺の役目だろ」
「トール……だが、死ぬんじゃないぞ?」
「そっちこそな」
「お喋りはそこまでですな。撃ち漏らした妖魔が、こちらに来ます」
その言葉に俺達は、気を引き締めて武器を構えるのだった。
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