第60話 校外学習その十二
……くそ、身体が震えてくる。
目の前で血が飛び、人が倒れていく。
俺も今から、あの中に入るということか。
相手はゴブリン……身長百六十程度の最下級の妖魔だというのに。
ただこの世界には魔法がないので、ゴブリンと言えども油断はできない。
「アレク! ぼけっとすんな!」
「わかってる……俺が先陣を切る! トール! 俺の背中を任せた! セレナは弓で援護! メルルはセレナの護衛をしつつ近づいてくる敵を排除!」
「ええっ!」
「はいっ!」
「いくぞォォォ!!」
自分を鼓舞するように声を出して、ゴブリンの群れに突撃する!
その姿は緑色の皮膚に醜い顔で、いざ現実でみると恐ろしい姿をしていた。
手には剣を持ち、雑に振るっていた……あの程度の剣筋ならっ!
「ケケー!」
「クカカ!」
「すぅ——邪魔だっ!」
相手の剣を弾き、その身体に剣を食い込ませると……胴体と下半身が分かれる。
その気持ち悪い感触に吐きそうになりつつも、再び剣を振るう。
「グカ!?」
「ケケッ!?」
「よし! 戦える!」
「前に出過ぎんなよ!?」
「わかってるさ!」
俺の横ではトールが槍を一突きして、ゴブリンの頭を的確に潰していく。
その槍さばきは見事で、流石は校内の武術大会の上位者である。
「そこですわっ!」
「えいっ!」
セレナは後方から弓を放ち、俺達に当てないように敵に当てていく。
こちらの腕も見事で、流石といったところか。
メルルは元々戦ったことがあるので、ある意味で一番心強い。
「ほほ、良いですね」
「ノイス先生?」
「自分が戦いつつも、周りをきちんと見ています。それは、稀有な才能なのですよ?」
「別に大したことじゃないです……親父から叩き込まれただけなので。剣士とは、常に周りを見渡せと。そして戦場の隙間を突いて、そこに突撃をかけろと。もしくは隙を作り、自分の円に敵を誘い込めと」
「流石はシグルドですね。きっちりと剣士としての指導と、上に立つ者としての指導を同時に行いましたか」
……なるほど、あれにはそういう意味があったのか。
ひたすらに追いかけ回された記憶しか残ってないけど。
そう思いながらも、ノイス先生と共に目の前の敵を斬っていく。
「おかげで、酷い目に会いましたけどね」
「ほほ、そのおかげで我々は助かってますよ。それでは、私も負けてはいられないですな」
老人とは思えない速さで、敵陣に切り込んでいく!
そして、通った先には何も残らない。
これが妖魔の特徴だ。
何処からともなく現れ、人類を苗床にして増えていくが、その本体は倒すとしばらくしたら消える。
「というか……やっぱり、俺のやる時は手加減してたじゃん」
「アレク! ゴブリンは大分片付いた!」
「それじゃあ、オークをやるぞ!」
「おうっ!」
後ろにいるセレナ達に視線を向けるとコクリと頷く。
それを確かめて、俺は槍を構えたオークに向けて駆け出す!
「ブホッ!」
「ブヒヒ!」
こりゃ、女の子を前に出せない訳だ。
身長は百七十センチ、体重は百キロを超える姿。
その口からはよだれが流れ、ニヤニヤした表情をしている。
まさしく、変態と呼ぶにふさわしい姿だ。
「アレク! 相手は槍使いだ! 気をつけろ!」
「わかってる!」
「ブホッ!」
目を見開き、相手の槍を迫ってくるのを捉え——剣を振り抜いて、槍の穂先を斬る!
「ブホッ!?」
「いまっ!」
武器を失った相手に対して深く踏み込み、腹を切り裂く!
相手は地面に倒れこんだあと……煙のように消え去る。
本当に、どういう仕組みなんだか。
「はっ! さすがだぜっ!」
「そっちこそ!」
ふと隣を見れば、オークの喉に槍を突き刺しているトールの姿がある。
「危ないわっ!」
「フホォォ!!?」
「おっと!?」
「ちっ」
セレナの声に反応して、一歩下がる。
どうやら、左右から同時に狙われたらしい。
しかし、セレナ放ったの矢が相手の目に突き刺さっていた。
「トール!」
「おうよっ!」
二人同時に動き、相手にとどめを刺す!
その後も、確実にオークの数を減らしていく。
「みなさん! 気をつけてください! 新手です!」
ノイス先生の声に反応し、そちらを見てみると……。
そこにいたのは、見上げるほど大きな妖魔……トロールの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます