第61話 校外学習その十三

 お相撲さんのようなでっぷりした、全身が緑色の身体。


 手には棍棒を持ち、ゴブリンごと兵士達を吹き飛ばしていく。


 おそらく、くらえば潰されることは間違いない。


 しかも、それが……二体いやがる。


 もしこの世界に魔法があれば話は違うが、現実はそう上手くはいかない。


「ったく! シリアスは求めてないってのに! コメディはどこいったァァァァ! カムバックゥゥゥ!」


「なんの話だ!?」


「なんでもないっ! こっちの話さ!」


 すると、セレナとメルルもやってくる。

 どうやら、ゴブリン共は片付いたらしい。


「アレク! どうするの!?」


「あ、あれって、僕達の里でも危険視されてるトロールですっ! 勝つには、歴戦の勇士が必要って……」


「全員揃ったか。んで、どうするよ?」


「さて、どうしたもんか」


 見た限り、兵士達がまともに相手をできる相手ではない。

 まず、その分厚い肉体に刃が通らない。

 そして攻撃を止められ、そこを踏み潰されてしまう。

 そんなことを考えていると、ノイス先生が俺の肩に手を触れる。


「お二人共、砦にお戻りください。ここは、私がなんとかします」


「……いや、ノイス先生でも無茶ですって」


「そうっすよ。どう考えても勝てませんって」


「分かっています。ですが、最低でも一体は倒してみせましょう……くっ」


「ほら、無理ですって」


 その姿は満身創痍で、息も上がっている。

 おそらく、チャクラも限界まで使ってしまっているはず。

 そもそも、この方はすでに引退した身……その方に頼りきりで良いのだろうか?


「ですが、敵の数は減りました。あとは砦に籠もれば、時間は稼げるはずです。その間に私たちが生贄になれば……もしかしたら、帰るかもしれません」


「いやいや、話に聞いてますけど……そんな甘い連中ではないでしょ。おそらく、女の子を連れ去るまで。仕組みはわからないですけど、あいつらは自然発生か、それ以外で増えることがない」


「っ〜!? う、うぅー……」


「ひぃ……」


 セレナやメルルが、両手で自分を抱きしめて震えている。

 当然だ、捕まったら何をされるかは一目瞭然だ。

 無論、俺達も生きたまま喰われるからたまったもんじゃない。

 ……なんか、腹立ってきたな。

 俺の平穏な日常を邪魔して、俺の大事な人達を危険にさらすとは。


「……俺が一体倒します。俺の大事な人を、あんな化け物にくれてやるもんか」


「……なんと?」


「ここで逃げたら親父に殺されてしまいますし。だったら、戦った方がマシです」


「……ははっ! これはこれは! ……ですが、あいつなら言いそうですね。そして、私にも情けないと言うでしょう」


「なんかムカつきません?」


「ほほっ、間違いなく」


 ノイス先生の目に力が戻る。

 どうやら、相当効いたらしい。


「んじゃ、決まりですね。俺が右をやるので、先生は左のやつを」


「ええ、いいでしょう。まさか、この歳になって熱くなるとは……それも、シグルドの息子と共闘ですか……悪くないですな」


「いやいや、まだまだ若いですって。うちの親父を見てくださいよ? まだ十年は現役を続ける気です」


「ほほっ、あやつと一緒にされるのは困りますな。しかし、元ライバルとして……少しは意地を見せなくてはいけないですね」


 そう言い、左側のトロールに向かって駆け出していく。

 さて、問題はここからだ。


「トール」


「言っておくが、逃げろなんて言ったらぶっ飛ばす」


「……あらら。いや、やばいんだって」


「当たり前だ。だからこそ、俺がお前の力になるんだろうが」


「……はぁ、仕方ないか」


 二人にも視線を向けるが、どうやら退く気はないらしい。


「わ、私もですわっ!」


「僕もですっ!」


「……わかった。その代わり、俺の指示に従うこと」


「何か作戦があるんだな?」


「そんな大層なものじゃないさ。ただ、俺のチャクラが保つうちに決着をつける」


 俺は三人に簡単な作戦を伝える。


 そして、全員でトロールに向けて駆け出すのだった。


 待ってろや! コメディィィ!!






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