第62話 校外学習その十四
おそらく、長期戦になるとまずい。
俺達は兵士の方より強かろうと、ここにいる方々より戦闘経験は浅い。
緊張の糸がいつ切れるかわからないし、実戦に置いての自分スタミナも不透明だ。
だったら、最初に全てを出し切る方が良い。
全身にチャクラを行き渡らせると、身体に負荷がかかる!
「すぅ……っ!!」
「お、おい? 平気か? お前のチャクラ量は多いんだから無茶するなよ? 身体を壊しかねない」
「へ、平気さ。最近は、親父に追っかけ回されてたし……まさか、これを見越してってことはないだろうが、そこには感謝だね」
「それは何というか……うん、本当になんというかだな」
「気を遣われると逆に辛いのだが?」
「ははっ! すまんすまん! だが、それなら安心だ」
そして二人で顔を見合わせ頷く。
俺達はそのまま、右側にいるトロールに向けて駆け出す。
「ブルァァァ!!」
「ごはっ!?」
「くそっ! 刃が通らん!」
「ひるむなっ! なんとしてもくいとめろ! チャクラがなくなった者は下がれ! とてもじゃないが耐えきれん!」
そこには、生徒を守ろうと必死になって戦っている兵士の方々がいた。
吹き飛ばされようとも歯を食いしばり、懸命に立ち向かっている。
トロールの周りには棍棒の振り下ろしによって、いくつもの穴があいていた。
チャクラがなければ、人などぺちゃんこにされてしまうだろう。
「トール! 作戦通り俺が切り込む! 後は任せたっ!」
「おうよっ!」
俺の声に応えて、トールが別行動をとる。
それを確認し、俺は足にチャクラを重点的に流して——間合いを詰める。
前世を思い出せ……余分な力はいらない、大事なのは緩急と体全体を使うこと。
「フガ?」
「邪魔だ、デカブツ——シッ!」
足から腰、腰から腕へと力を回し、自分と剣を一体化して振るイメージ!
「フガァァ!?」
「おおっ! あのトロールから血が!」
「あれはアレク様では!?」
「流石は剣聖シグルド殿のご子息だっ! 噂などあてにならんなっ!」
俺の放った居合い斬りは、相手の腹を切り裂いた。
どうやら、チャクラを全開にすれば刃は通るが……そう甘くはないらしい。
「ぶガァァァァァァァア!」
「チッ!」
想定外のダメージに怒り狂ったトロールが、めちゃくちゃに暴れ出す!
「わぁぁぁあ!?」
「責任者の方! 兵士達を下がらせてください! もしくは、周りにいるオークをお願いします! こいつは……俺が倒します」
「生徒に任せるしかないとは……す、すまない」
「いえ、俺も生き残りたいだけなので」
俺の指示に従ってくれ、兵士達が周りから去っていく。
しかし、目の前のトロールの視線は俺だけを捉えていた。
「どうやら、さっきの一撃で俺を敵とみなしたか」
「ブルァァアァァ!」
俺をめがけて、連続で棍棒が振り下ろされる!
それを左右に避けつつ、次の一撃のために居合いの体勢のままチャクラをため続ける。
待つこと数分……その時はやってきた。
腹から血が流れているからか、相手が疲れて一度立ち止まってしまう。
そして次の瞬間——奴の目に矢が突き刺さる!
「グガァァァァァァ!?」
「やったわっ!」
「よくやったセレナ!」
作戦通りに、メルルがセレナをトロールの近くまで連れてきてくれた。
そしてセレナの腕なら、その距離なら目も狙えるはずだと。
よし、これでトールなら反応してくれるはず。
ふと視線を向けると、予想通りトールが敵の後ろに回り込んで……。
「そらよっ! 後ろがガラ空きだぜ!」
「ブガァァ!?」
目に矢、背中に槍を突き刺され、相手が棍棒を手放す。
俺は一足で迫り、溜めていたチャクラを解放して……最初につけた傷に居合い斬りを叩き込む!
「ウオォォォォォォ!!」
「アアァァァァァァァァ!? ……ガ、ガ……」
腹から血がドバッと流れ、トロールが倒れる。
そして、煙のように消えていくが……同時に、俺の体から力が抜けていく。
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