第56話 校外学習その八

 朝食を済ませ休憩したら、午前中は戦闘訓練を行う。


 各自得意な武器に分かれ、専門の指導員の元で鍛錬に励む。


 昨日の不甲斐なさあり、生徒達はやる気に満ちている。


 今日こそは、自分で飯を調達すると……実は、ノイス先生から忠告があった。


『昨日は初日ということもあり見逃しましたが……今日取れなかった人は、問答無用で飯抜きですからね? 甘えてばかりではいけませんから』


 それは正論なので、俺たちも今日はあげないことにしましたとさ。


「ふぁ……それにしても退屈なこと」


「せぁ!」


「くそっ! 当たらない!」


「うわっ!?」


 俺の目の前には、先生や兵士の方々と剣の稽古をしている生徒たちがいる。

 そんな中、俺は木の陰で寝転がっていた

 決してサボっている訳ではなく、稽古をしたら相手の兵士を倒してしまったから。

 そんなことが続き、俺の相手はいなくなってしまった。


「最近、親父とばかり打ち合いをしてたからなぁ。アレに比べたら、兵士さん達は可愛いもんだし」


「どうして当たらない!?」


「うわぁ!?」


 体全体を使わず、腕の力だけで剣を振るってる彼らの剣速は遅い。

 あれでは、力も入らないし速さもない。

 まあ、俺としては合法的にサボれるから良いんだけど。

 ただ、意外とスッキリ起きたので、退屈なのは事実である。


「おやおや、こんなところにサボっている生徒さんが」


「なっ!? ……ノイス先生ですか、驚かさないでくださいよ」


 いくらダラダラしてたとはいえ、近づかれたのに気づかないとは……。

 流石は、若い頃は若手最強と言われた方だ。


「これはこれは、すみません。貴方なら気づくと思ったのですが」


「煽っても無駄ですよ。俺は、そんなもんです」


「……本当に、シグルドとは似ても似つきませんね。顔といい、のんびりなところはアイカさんにそっくりです」


「……母上を知っているのですか?」


 確かに王女だったからおかしくはないが、その言い方には親しみがこもっていた。

 しかし、俺はそんな話は聞いたことがない。


「ええ、よく三人で遊んだりもしましたよ。貴方とトール君とセレナ様のように」


「そうだったんですね……」


「さて、昔話はその辺にして……私が稽古をつけましょう」


「……はい? いや、ノイス先生は怪我をして引退したんじゃ……」


「おや? 舐めてもらっては困ります。 丁度いいハンデですね」


 わかりやすい挑発だったが、俺ではなくアレクの若い部分を刺激する。

 ……まあ、退屈だし良いか。


「わかりました、お相手をお願いします」


「素直でよろしい。では、こちらにきてください」


 起き上がり、ノイス先生についていく。

 そして、空いてる場所で立ち止まり、近くにある木剣を手渡される。


「さあ、始めましょう。木剣なので、思い切りどうぞ。チャクラも使って良いですから」


「それはどうもです……すぅ」


 息を吸い、ゼロの体勢から、一気に距離をつめて剣を弾くために腕付近を狙う!

 カンッ!という音がしたが……どうやら、一歩下がってガードされたようだ。


「ほほ、流石に速いですね。ですが、まだまだ腕が足りないです」


「……これを止めますか。とても引退した方とは思えません」


「ありがとうございます。では、剣聖の息子の力を見せてもらいましょう!」


「わわっ!?」


 引退した剣士とは思えない速さの剣撃が飛んでくる!

 その速さは親父に引けを取らない!

 おそらく、チャクラを全開にして全盛期を再現しているんだ。


「どうしました? その程度ですか?」


「っ〜!? ナメんなぁ!」


「むむっ!?」


「セァ!」


 俺の中の何かが弾け、チャクラを全開にして攻め立てる!

 そして数合打ち合った末……防御が間に合なくなった相手の剣を弾き飛ばす!


「くっ!? ……ま、参りました。いやはや、ここまでとは恐れ入りました。流石はシグルドの息子ですね」


「……いえ、貴方が怪我をしてなければ勝てなかったでしょう。それくらいは弁えてるつもりです。というか、挑発が下手なんですよ」


「ふふ、その安い挑発に乗ったのは誰ですかな?ですが、安心しました。貴方の中にも、まだ燃える気持ちがあったことを。これは、私も考えなくてはいけないですね」


「それは、どういう……」


「すげー! ノイズ先生に勝っちゃったぜ!」


「嘘ー!? あのシグルド様と剣聖争いをしてたノイス先生を!?」


「アレク様はやっぱり強かったんだ!」


 ……いつの間にか、俺たちを囲むようにギャラリーが溢れかえっている。

 それこそ、兵士たちや先生方も。


「おやおや、困りましたね」


「……全然、困ってるように見えないのですが? もしかして、何かを図りました?」


「ほほ、そんなことはありませんよ……みなさん! 今のをお手本として鍛錬を続けなさい!」


「「「はいっ!!」」」


 その言葉で、生徒達が散らばり始めた。

 どうやら、俺はダシにされたらしい。


「いやー、次の国王にはアレク様が……」


「ほんとだよなー。最近のアレク様、めちゃくちゃかっこいいもんな」


「わかる! 私、ダンスの申し込みしようとしたもん。流石にアレだったけど……」


 すると、ノイス先生が近づいてきて……耳打ちをする。


「ほほ、国王を目指すのもアリですかね?」


「なっ!?」


「ではでは、私はこれで」


「図りましたね?」


「なんのことやら」


 そう言い、立ち去っていく。


 ……何やら面倒な予感しかしないのだが?


あの狸爺さんめぇぇ——どうしてこうなったァァァ!?








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