第55話校外学習その七

食事を終え少し経ったら、ノイス先生から明日の予定を聞かされる。


余談であるが、俺にこっそりと『私も鍋を食べて良いですか?』といってきたのは、みんなには内緒である。


少しばつが悪そうだったが、それくらいは良いと思う。


相変わらず、真面目な先生だよなぁ。


「えー、皆さん、どうでしたか? 狩りというのは大変でしょう? 探すもの一苦労ですし、倒すのも危険が伴います。ですが、あなた方はそれを毎日当たり前のように食べているのです。それは働いている猟師の方々や兵士達がいるからです。来ている服もそうですが、何気ない日常は誰かの頑張りによってつくられています。さて……明日は戦闘訓練があります。我々貴族は国を守ることが仕事です、そのことに自覚を持って取り組んでください」


「「「……はいっ!」」」


その返事には、気持ちがこもっていた。

やはり、今日の探索は相当大変だったのだろう。


「良いお返事ですね。それでは、これからは自由時間となります。といっても、多分疲れてそれどころじゃないと思いますが」


「やったぁ! 遊ぼうぜ!」


「何する!? トランプとかする!?」


「良いね良いね!」


あちこちで、そんな声が響く中、解散となったが……先生の言う通りになる。

自由時間なので、最初はみんなはしゃいでいた。

しかしお風呂に入った後、すぐに静かになっていく。

そもそも、今日は移動もあったから疲れている。

なので俺たちも、早めの就寝をすることにした。


「ふぁ……トール、トランプもたまにはいいね」


「そうだな。小さい頃は毎日のようにやってたよなぁ」


「そういや、そうだったね。俺とトールとセレナ……母上を混ぜてやったね」


それは幼き頃の大事な思い出だ。

まだ自分が何者かもわからずに、ただ幸せな日々を過ごしていた。

そして、それが永遠に続くと思っていたんだ。


「……ああ、そうだったな。そういえば、マリアちゃんは元気か?」


「ん? うん、最近は体調も良いみたいだよ」


「そいつは良かった。んじゃ、俺も来週は久々に顔を出すとするかね」


「おっ、助かるよ。なにせ、女子が多いと肩身が狭いし」


「ははっ! 間違いない! ……さて、俺たちも寝るか」


「そうだね。こうしてトールと寝るのも久々だなぁ」


「へっ、それもそうだ」


そうして俺たちは寝ると言いながら、その後もお喋りを楽しむのだった。


……こういうのって、なんか良いよね。







翌朝、少し早く目が醒める。


割とスッキリ起きたので、そのまま起きることにした。


ひと気のない中、テントを出て水で顔を洗う。


「ふぅ……気持ちいいな」


「アレク、おはようですわ。これ、使いなさい」


ふと振り返ると、いつの間にかセレナがタオルを持って立っていた。

朝の光に金髪が照らされて輝いている……不覚にも、綺麗だなと思ってしまう。

ほんと、黙ってれば美人なことだ……無論、そんなセレナはつまらないが。


「おっ、セレナ、おはよう……ありがとな」


「べ、別に大したことじゃないわ」


「どうした? 随分と早起きだな?」


「……貴方がテントから出ていくのが見えたから」


「はい? なんだって?」


「なんでもないわよっ!」


「おいおい、まだ寝てる人もいるんだから静かに……ん?」


そこでふと、とあることに気づく。

俺はセレナに近づき……その髪に触れる。


「ふえっ!? な、な、なにっ!?」


「いや、寝癖がついてたから。今なら、俺は手が濡れてるし」


「えっ? ど、どこ!?」


「動くなって……よし、直った。せっかく綺麗な髪なんだから、きちんとしないともったいないもんな」


「っ〜!?」


すると、みるみるうちに耳まで真っ赤になっていく。


「お、怒るなよ! ほ、ほら、みんな起きてきたから行こうぜ」


「お、怒ってないわよっ! ……アレクのバカ」


なにやら、ぶつくさ言うセレナを連れて、テントに戻るのだった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る