第51話 校外学習その三

獲物を倒し終えた俺たちは、即座に辺りを警戒する。

学校でも教わったが、そういう時が一番危ないと教わったからだ。

戦いが終わったと思った時、人は一番気が緩むと。

それに獲物の横取りを狙ったり、俺たち自身が狙われてる可能性もある。


「……どうやら、平気そうね。他に仲間もいなそうだわ」


「僕の耳にも、近くには反応ありません」


「それなら平気かな」


「そうみたいっすね」


全員で顔を見合わせ、ひとまず武器を仕舞う。

さて、獲物を倒したのはいいけど……デカすぎじゃね?

馬には乗り切らないし、嫌な予感しかしない。


「それじゃあ、砦に戻るわ。血の匂いを嗅ぎつけて、他の生き物が来る前に」


「そうですね。森でも、そうやって教わりました」


「それはいいけど、どうやって持ってく? 小さい方はともかく、大きな方は馬に乗らないかと」


「アレク、頑張ろうぜ」


「やっぱりそうなる?」


トールが全てを悟った表情で、俺の方を叩く。

どうやら、嫌な予感が的中したらしい。


「アレク……まさかと思うけど、か弱い私達に担げなんていわないわよね?」


「いや、お前はか弱くないし。ムチムチして……」


「——何か言ったかしら?」


「い、いえ! 運ばせて頂きます!」


アブナイアブナイ……危うく、俺の命も亡くなるところだった。

本人は気にしてるみたいだが、女の子はそれくらいが良いと思うけどね。


「それなら良いわ。運ぶにしても、とりあえず血止めだけはしないといけないわね。トール、火で首元を焼いてちょうだい」


「了解っす。んじゃ、行きますぜ」


トールが荷物からバーナーを取り出し、ボアの出血痕を火炙りにする。

これで、しばらくは血が流れないし、保存の意味でも鮮度が保たれるってわけだ。



小さいボアを馬に乗せ、セレナとメルルが辺りを警戒する。


そんな中、俺とトールは……チャクラを全開にして踏ん張っていた。


ただいま、二メールを超えるクレイジーボアを、二人で担いで歩いているからです。


俺は前、トールが後ろを担ぐ形だ。


「お、おもっ!」


「こ、こいつは堪えるぜ……!」


「トール、もう少し力を入れてよ!」


「ばかやろー! これでも全力だっての! お前みたいな規格外と一緒にすんな!」


「どういう意味だよ!?」


「そのままの意味だよ!」


「ちょっと!? 静かにしなさいよ!」


「「お前がなっ!」」


「ダメですっ……! みんな静かにしてよぉ〜」


「「「ごめんなさい」」」


その泣きそうな表情に、俺たちは全面降伏するのだった。

その後、歩き続け……日が暮れる直前に、何とか砦に帰還する。

流石に俺たちを見かねてか、あとは二人がやってくれるそうだ。

なので、トールとその場で座り込む。


「つ、疲れたぁ……」


「ま、全くだ……アレクみたいな規格外じゃないっての」


「だから、何の話?」


「気づいてねえのか? 体力はともかく、お前のチャクラ量は俺達とは比べ物にならないんだよ」


「そうなの?」


「ったく、相変わらずだな。それも、黒髪である証だろうに」


そういや、そんな話もあったか。

黒髪の者は生まれつきチャクラが多いとか。

そんな会話をしていると、二人が戻ってくる。


「アレクー! トール! 合格だって! 時間も日が暮れる前だし、大物だって! 子連れは警戒心が強いのにすごいって褒められたわ」


「そいつは良かった。まあ、間違いなくメルルのおかげだね」


「それはそうだな」


「ええ、そうね」


「え、えっ!? 僕ですか?」


俺たちが視線を向けると、メルルが慌てふためく。

どうやら、自覚がないらしい。


「そりゃ、そうさ。あの耳がなければ、そのまま近づいてバレてたさ」


「ぼ、僕、役に立ってましたか?」


「「「もちろん」」」


「……えへへ、ありがとうございます……僕、ここに来て良かったです……グスッ」


「えっ? お、おい?」


いきなり、メルルが泣き出してしまった。

何かまずいことを言っただろうか?


「……トール、アレクに任せていくわよ」


「良いんすか?」


「当たり前じゃない。私だって、そこまで馬鹿じゃないわ」


「へっ、良い女じゃないっすか」


「おい? 二人して何を……」


すると、二人が俺の肩に触れ……。


「アレク、ここは任せるわ。きちんと、メルルの話を聞いてあげて」


「そういうことだ。先に飯の準備をしてくるぜ。セレナ様に任せたら、今日の飯がなくなりそうだし」


「どういう意味よっ!?」


「そ、そういうわけで!」


逃げるトールを追いかけ、セレナが走り出す。


そして……俺とメルルは二人きりになるのだった。









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