第34話 最弱親子

 部活を終えて、家に帰ると……親父が玄関で待ち構えていた。


 その顔は凶悪に染まっており、俺は自分の命の危険を感じた。


 何より、その身からは剣気がほとばしっている。


「帰ったか、我が息子よ」


「あっ、気のせいです。まだ、息子は帰ってません。えっと——さようなら!」


 素早く身を翻し、玄関から逃走を図る!


「むっ? 早いのう……セバス!」


「はっ、旦那様」


 すると、玄関を出た先にはセバスが先回りをしていた。

 相変わらず、気配を感じなかった。

 まあ、カエラに隠密を仕込んだのはセバスだから当たり前なんだけど。

 セバスはマリアの護衛でもあるから、その腕前は確かだ。


「セバスッ! 退いてくれ!」


「すみません、アレク様。私は旦那様の側近なので」


「ぐぬぬっ……」


「というより、旦那様が悪いです。そんな顔をしては、逃げるのも当然かと」


「ん? 儂は変な顔をしてるか?」


「ええ、鬼の形相といったところかと。嬉しいのはわかりますが、抑えてくださいませ」


 ……えっ? なに? あの顔って嬉しいの?

 初めて見たけど、俺には殺し屋の目にしか見えないんだけど?


「う、うむ……これで良いか?」


「ええ、ましになったかと」


 振り返ると、確かに少しマシになっていた。

 剣気も抑えられ、ギリギリ逃げずに済みそうなくらいには。


「それで、何が嬉しかったの?」


「いや、マリアから聞きたが……お主がやる気を見せたとか。わしの負担を減らすとか何とか……生意気を言いおって」


「ああ、その話か。いや、気が変わったから気にしないで良いよ。父上なら、まだまだバリバリ働けそうだし」


「……バカモン!」


「イテッ!? あ、頭を殴るなし!」


 避ける間も無く、気がつけば頭に痛みが走っていた。

 やっぱりまだまだ平気そうじゃん!


「うるさいわいっ! せっかく感動したというのに! わしの感動を返せ!」


「知るかっ!」


「そこは父上のために頑張りますというところじゃ!」


 今度は油断してなかったので、拳を避ける。

 よし! 元々動体視力は悪くない!


「むっ? 生意気にも避けおったか」


「へへん、そうそう殴られてたまるか」


「お二人共、その辺で。後ろにマリアお嬢様がいらっしゃいますよ?」


「「なに!?」」


 その言葉に、俺と親父が振り向くが……そこにはマリアの姿はなかった。


「「セバス?」」


「すみません、お二方。しかし、実際にお嬢様がいたら何と言いますかな? きっと、御怒りになりますよ? さあ。まずは玄関から上がってください」


「「……はい」」


 その姿はありあり浮かんできたので、俺と親父はセバスに従うことにする。

 親父もセバスには頭が上がらないし、俺もカエラには弱い。

 ……この家で最弱争いをしているのは、もしかしたら俺と親父かもしれない。




 その後、談話室に案内されてソファーに座る。


「それで、何があったの? 俺、めちゃくちゃ疲れてるんだけど?」


「そうじゃ、その件もあったわい。昨日も少しだけ聞いたが、お主は部活を始めたそうだな?」


「まあ、一応。セレナのいるところなら、そんなに気を使わないで済むかと思って」


「良きことだ。儂もセレナ様にも会いたいのう」


「父上は一週間はいるんでしょ? だったら、連れてくるから平気だよ」


 さっき、念押しで約束させられたし。

 絶対に遊びにいくので、お父様の許可を取ってくると息巻いてたっけ。


「ほほう? それは良いことだ」


「ただ、父親の許可……国王陛下の許可がいるって話だけど」


「それなら平気だろう。儂の方でも、話を済ませておいた」


「はい? ……何をしたので?」


「昨日、飲みに連れて行ったわい。あの小僧を追ってくる護衛を蹴散らしてな。その際に、色々と話をさせてもらった」


 ……やばくない? 国家反逆罪じゃね?

 いくら自分が、先代国王の従兄弟にして親友だったとはいえ。

 多分、英雄だから許されてるんだろうけど。


「……あのぅ、俺……挨拶に行くって言ってしまったんですけど! 何してくれてんの!?」


「がははっ! 平気じゃよ! 息子さんによろしくと言われたのでな!」


「それ大丈夫じゃないやつ! 代わりに仕返しするってやつだから!」


「なに、男が細かいことを気にするんじゃない。というわけで、明日の学校帰りに国王の元に行くが良い」


「……はぁ、わかりましたよ」


 親父がこうなのは昔からだから言っても仕方ない。


 それに、会っておかないといけないことは事実だし。


 マリアのためにも……胃が痛いけど、頑張るとしますか。

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