第33話 母親の記憶

……うん? なにやら柔らかな感触が……。


「ひゃい!?」


うーん、これはなんだろうか?

もちもちして、ずっと触っていたいような……。


「ちょっ!? ど、どこに……」


「むちむちしてて良いなぁ」


「……この——ばかァァァァ!」


「イタっ!? な、なんだ!?」


びっくりして思わず起き上がると……顔がなにやらポヨンとした感触を得た。

なんだ、この感触は? ここは天国か?


「むがっ!?」


「っ〜!! アレクの変態っ!!」


「グハッ!?」


わけもわからないまま、何やら硬い地面に転がる!

いたい!? 天国だと思ったら地獄だった!?


「いてて……な、なんだ?」


「あぅぅ……お、お嫁にいけないわ……こんな面前で」


目を開けてみると、何やら両手で顔を覆っているセレナがいる。

耳まで真っ赤にして、ブツブツとつぶやいているようだ。


「ったく、なんなんだよ」


「あはは……流石にアレク君が悪いかなぁ」


ふと隣を見ると、呆れ顔をしたメルルがいた。

だめだ、全然状況が掴めない。


「すまん、悪いが状況を説明してくれるかな?」


「うん、そうだよね。私達も悪ノリしちゃったし……」


そして、説明を受けた。

どうやら、二人に攻められた俺は疲れ果てて倒れてしまったらしい。

そのことで責任を感じたのか、木の下でセレナが膝枕をしてくれたと。


「なるほど、そういうことか……ということは、あの柔らかな感触は太ももだったのか。ふむ、むちむちしてて……ん? じゃあ、最後に顔に当たったぽよんはなんだ?」


「ア、アレク君、その先を考えるのはやめよう! ねっ!? お願い!」


膝枕の状態から顔を起こしたらどうなる? ……おっぱい。

なるほど、あのぽよんはおっぱいだったのかァァァァ!

くそっ! もっと堪能しとけば……いかんいかん、これではいかん。

夢の中で母上にも言われたじゃないか……女の子を泣かせるなって。


「……わかった、やめとく」


「ほっ、良かったぁ。えっと、あとは……」


「わかってるよ。まあ、色々言いたいことはあるけど……とりあえず、謝ってくる」


相変わらず、木の下で悶えているセレナに近づき……。


「セレナ、俺が悪かった」


「……べ、別に、アレクが悪いわけじゃないわ。元々は、私達が調子に乗っちゃったから。こちらこそ、ごめんなさい。つい、楽しくて……」


……そういや、俺が手加減をしたりすると怒っていたっけ。

今回は本気でやったし、それがセレナにとっては嬉しかったのかもしれない。


「いや、良いものを堪能できたから良いさ」


「も、もう! 忘れなさい!」


「はいはい、わかったよ。んじゃ、これで終わりだ」


「そ、そうね、今回は許してあげるわ」


全然親孝行もできてないうえに、約束を破るのはあれかな。

このタイミングで母上が夢に出てきたことも、何か意味があるのかもしれない。

セレナが対等に接してくれるのは、俺くらいしかいないわけだし。


「セレナ、また遊ぼうな。今度は、部活だけじゃなくて出掛けても良いし」


「……ふえっ? ど、どういう風の吹きまわしよ? 」


「別に大したことじゃない。ただ、さっき……母上の夢を見てさ。庭で遊んだ、昔の記憶を思い出したよ」


……夢だけど会えてよかった。

アレクの記憶として、母上は生きてるってことだから。


「……そう……あの頃はまだアイカ様もいたわ。小さいマリアちゃんを抱きながら、私達のことを眺めていたっけ」


「そうそう。お前が泣いてばかりで俺は大変だったよ。それこそ、母上にはよく叱られたし」


「あ、あれは、あんたが悪いのよ……全然本気で相手してくれないんだもん」


「悪い悪い。んで、頼みがあるんだが……もしよかったら、たまに母上の話を聞いてくれるか?」


「……そんなの当たり前じゃない。私だって、大好きだったんだから」


「そっか……ありがとな」


マリアは母親の記憶がないし、セバスには辛い顔をさせてしまう。


親父と話しても……なんだかなって感じだ。


そうなると、セレナと話せるのは……母上を忘れられずに済む。


人が本当に死ぬのは、その人の記憶から消えた時だと思うから。





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