第49話 校外学習その一

その後、砦の中に入り、生徒達が一堂に集められる。

その先頭には、お立ち台に立ったノイス先生がいた。

イメージ的には、学校の全校集会みたいな形かな。


「みなさん、お疲れ様でした。ひとまず、何事もなく着けたことを喜びましょう。今回は、三学年が揃う初めての行事ですね」


そう、今回は三学年が揃ってる。

もちろん全員ではなくて、各学年の二クラスが集まってる感じ。

他のクラスの人達は、違う場所に校外学習に行っている。

俺たちが来た場所は、戦闘を前提とした訓練所だった。

理由は簡単で、ここに集まったのは各学年の貴族クラスのみ。

いずれは何かしらの立場に着き、指揮官や兵士になる可能性があるからだ。


「一学年につき四十名、つまり合計百二十名ですね。これだけの大人数で行動するのは珍しいでしょう。皆さんにはこれから、二泊三日の間過ごしてもらいます。一年生は先輩方を見習って、二年生は見本となり、三年生はそれを見守ってくださいね。遠足みたいなものですが、いずれ来る時の演習でもあります。ほどほどに緊張感を持ってください」


「「「はいっ!!!」」」


全生徒の声が重なり、砦の中に声が響く。

お遊び気分で来ていた連中も、気が引き締まったのだろう。

流石はティルフォング公爵家前当主にて、若い頃はうちの親父のライバルと言われた人だ。

剣の腕前は一流だったけど、怪我をしてからは一線を退いて教師に転向したって話だ。


「良い返事です。あとは各自の担任の先生やリーダーに従ってください。わからないことや異常があれば、すぐに我々教師陣に聞きにくること。知らないことやわからないことは恥ずかしいことじゃありません。それを怠ることこそ、恥と思いなさい……さあ、それでは行動開始です」


そして解散となり、各チームで行動を開始する。

砦の中は現役の兵士たち専用なので、俺たちは砦から出て行く。

ここでは、一番下の兵士という扱いになる。


「さて、セレナ。まずは何からする?」


「そうね。まずは、テントを設営するわよ。日が暮れてからじゃ視界が狭いから」


「それもそうっすね」


「ぼ、僕、できるかな?」


「大丈夫だよ、セレナがやってくれ……わかったわかった、俺もやるから」


めちゃくちゃ睨まれたので、両手をあげて降参のポーズをとる。

まあ、俺もちゃんとやらないと単位がヤバいか。

その後、四人で協力して男女別々の二つのテントを設置する。


「これで、ひとまず寝床は確保ね。次は、着替えるわよ。流石に、制服のままじゃ汚れちゃうから」


「そうですね。ジャージの方が動きやすいですし」


「言っておくけど……覗いたら殺すわよ?」


「誰が覗くか。俺だって命は惜しい。というか、見張ってるから安心しろ」


「あ、ありがとぅ……メ、メルル! 行くわよ!」


「は、はいっ」


二人が女子用のテントに入ると、トールが肩を組んでくる。


「へっ、やるじゃん」


「ん? 何の話?」


「いんや、わかってないなら良いさ。それより、ダンスはどうすんだ?」


「ダンス?」


「おいおい、この校外学習の目玉じゃんか。最終日の夜に、打ち上げみたいな感じでキャンプファイヤーするんだよ。そこで女子とかを誘って踊るんだ」


……あぁ、そういえば去年もあったな。

めんどくさいから、端っこの方で隠れてダラダラしてたっけ。


「とりあえず、適当に隠れるとするか」


「おいおい、それは可哀想だろ。うちの班には、二人も女子がいるってのに」


「あの二人は人気者だから平気でしょ」


「わかってないなぁ……まあ、セレナ様には申し込んだ方が良いぜ?」


「どういう意味?」


「気づいてないのか? お前、女子から狙われてるぜ?」


「えっ? ……ああ、そういえば」


そのためにセレナと班を組んだんだった。

そうか、申し込まれる前に断る口実が必要か。


「そういうことだ。俺はメルルちゃんに頼むとするか。多分、俺が行けば丸く収まるだろう」


「あれ? そういう感じなの?」


「違う違う。俺も、今は面倒な女性に絡まれたくないし。せめて、兄貴が結婚するまでは」


「そういや、そうだったね。それじゃあ、そういう感じで行こう」


すると、テントからジャージに着替えた二人が出てくる。

なので交代で、俺たちもささっと着替え……次の工程に移る。


「セレナ、次はなんだっけ?」


「えっと……食材集めね。あっちにある森に動物がいるから、そこで狩りをしなさいって。あと薪と山菜とかも集めなさいだって。つまり、自給自足の生活ってことね。取れなかったら、ご飯抜きってことみたい」


「うげぇ……一年の時と違くない? そんなにやること多かったっけ?」


「当たり前じゃない、私達は二年生なんだし。ほら、日が暮れる前に戻りたいから急ぐわよ。私はご飯抜きはともかく、査定に響くから嫌よ」


「めんどくさいけど、飯なしは嫌だし仕方ないか」


「確かに飯抜きは嫌っすね」


「お、お腹空いたら眠れないですっ」


四人で顔を見合わせ、コクリと頷いた。


とりあえず、全員の気持ちは一致したようだ。


奇しくも、先生方の狙い通りに。







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