第53話 校外学習その五

はっきり言って、この世界において料理は難しくない。


何故なら、前世の俺が知ってるような素材は大体揃っているからだ。


そのことに疑問を抱かないわけじゃないが、考えたところで仕方がないと思っている。


俺はささっと料理を作り、他のグループより早く終わらせた。


そして、ノイス先生に確認してもらう。


「ほほう? 今日のメニューは……クレイジーボアと野菜たっぷりの鍋ですか……うん、美味しいですな。今日一番の大物は、貴方達で決まりですね」


「ありがとうございます。と言っても、料理って言えるものじゃないですけど。俺が作れるのは、これくらいですし」


「いえいえ、そんなことはありませんよ。自分にできるものを把握して、それを失敗せずにできることは大事です。それは全てにおいて役に立ちますし、指揮官としても優秀になれるかと」


「いやいや、大袈裟ですって」


「ふふ、相変わらずですね。それでは、合格といたします」


そういい、他の班を見に行こうとするので……。


「あっ、すみません。少し聞きたいことがあるんですけど」


「なんでしょう?」


「ほら、メルル」


「えっ?」


多分、さっきの会話から思うところがあるはずだ。

どうせ、俺たちだけでは食べきれないし。


「何か言いたいことがあるんじゃないか?」


「は、はぃ……えっと、他の班の人達に分けても良いでしょうか? 獲物が取れなかった人たちに。その、最低限の食事だけじゃ物足りないかなって」


「ふむ……獲物を取ったのは貴方達なので好きにして良いですよ」


「あ、ありがとうございます!」


「いえいえ、それでは……分け与える精神、嫌いじゃないですな」


そう言い、今度こそ去っていく。


「セレナさん、トール君、勝手に決めてごめんなさい」


「良いわよ、別に。それも上に立つ者の役目でもあるわ」


「そうっすね。ここらで、恩でも売っておくといいぜ」


「んじゃ、とりあえず俺たちで先に食べるか」


全員で頷き、すぐに食事を開始する。

夜空の星の下、鍋を四人で囲む。

そして、それぞれ皿に盛った鍋を食す。


「よし、まあまあかな……香草で臭みも取れてる。余分な物を入れずに、肉の出汁と野菜の水分で作ったから濃厚且つあっさりして美味い」


「す、凄いわ……アレクにこんな才能が」


「おいおい、俺ですら知らなかったぞ?」


「わぁ……アレク君、お料理上手です!」


「いやいや、大したことないよ。きっと、この状況が美味しさを倍増させてるんだね」


「「「それは確かに」」」


こうして親しい人達と、キャンプのような形で食べる飯は格別だ。

本当なら酒があれば良いが……一応、この国でも二十歳からだし。

だが、酒などなくても十分だな……うん、端的に言って最高だ。




その後、満足に食べ終わったのは良いが……どうやら、配るまでもなかったらしい。

いつの間にか、俺たちの周りには人集りが出来ていた。

すでに自分の狩ってきた獲物を食べた者、獲物が取れなかった者、終いには兵士さんまでいるし。

それらが、羨ましそうに俺たちを見ていた……というより、土鍋に入った牡丹鍋を。


「ア、アレク、どうするの?」


「めちゃくちゃ見てるっすね」


「い、いっぱいいます」


「んじゃ……注目! 諸君! 美味い鍋が食べたいか!?」


俺のセリフに、周りの人たちがポカンとした表情を浮かべるが……すぐに顔色が変わっていく。


「「「うぉぉぉぉ!!!」」」


「食べたいです!」


「お願いします!」


雄叫びと共に、次々とそんな願いをされる。


「良いだろう! それでは、一列に並ぶと良い! ちなみに、喧嘩や割り込みをした者にはなしだっ! トール!」


「へいへい、俺が整理しますかね」


「メルルは、俺と一緒によそってくれ。セレナは、それを配ってくれ」


「わ、わかりました!」


「ええ、任せてちょうだい」


そうして、四人で協力して土鍋に入った牡丹鍋を生徒達に配っていく。


それを食べて、みんなが笑顔になっていく姿を見て……こちらも自然と笑顔になる。


まあ、こういうのも……たまには悪くないかもね。














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