第16話 やらかす?
その後、仕方ないので更衣室に入り着替える。
当然、カエラが一緒に入ろうとしたので止めた。
「それにしても、何もみんな出ていかなくてもなぁ」
男子更衣室には何人かの生徒がいたが、俺を見るなり慌てて逃げていった。
いや、俺が嫌われてるとかいう話では…ないよね? 大丈夫だよね?
せっかく変わろうとしたんだから、普通の男友達とか欲しいんですけど。
「それは仕方ないかと」
「……ねえ? どうしているんだい?」
振り返ると、澄ました顔でカエラが立っていた。
「いえ、着替え終わったので」
「うん、それを知ってる時点でおかしいと思うんだけど」
「お気になさらないでください」
「いや、それは君が言うセリフじゃないよ!?」
「まあまあ、落ち着いて」
……だめだ、これは怒ったら負けな気がする。
ほんと、良い性格になったもんだ。
「はぁ……んで、どういう意味?」
「御主人様は公爵家嫡男にして王位継承権二位の方ですから」
「まあ、近づき難くはあるよね。でも、逃げ出すほどではなかったような……」
言い方はアレだけど、俺が何か言えば退学くらいにはできる。
だけど権力者として寄るには、王太子と敵対ということになり……。
だから、今までも人が近づいてこなかったんだけど。
「多分、ご主人様が変わったというのが広まったのでしょう。そのことで、皆が様子を見ているというか……下手に近づいて火傷するのを恐れているのかと」
「あぁー……俺が権力者として動こうとしてるとか?」
「それもなくはないですが、単純に動きが読めないから怖いのかと。こればっかりは、これからの行動で示すしかないですね」
「まじか……じゃあ、友達を作るには時間がかかるなぁ。俺としては権力が欲しいわけじゃないから、大胆な動きをするのも嫌だし……まあ、仕方ないか」
「……知らぬは本人ばかりですね」
「ん? なんて言った?」
「いえいえ〜さあ、お二人が待ってますよ」
「んじゃ、そのためにも部活でもやってみますか」
他にも友達とか作って普通の学園生活を送りたかったけど、それで派閥を作ってるとか思われるのも嫌だし。
ひとまずは、地道にコツコツとやっていきますか。
準備を済ませて、外に出ると……さっきよりも人集りが出来ていた。
なるほど、これが様子を見てるってことか。
「アレク! 遅いわよっ!」
「アレク君、似合ってますねっ」
すると、テニスウェアに着替えた二人がやってくる。
全体的にすらっとしたメルルだが、その生足も脚線美で素晴らしい。
セレナの方はいい感じむっちりしるので、これまた素晴らしい。
うむ……前言撤回だ、テニスも良いかもしれん。
「ちょ、何見てるのよ?」
「あ、あのぅ? 変ですか?」
「いや、すまん。二人共、よく似合ってると思って」
何だかんだ言って、二人とも美少女だし。
というか、前世では関わることがなかった部類の……やめやめ!
みんなも己の黒歴史を思い出すのはやめようねっ!
「あ、ありがとぅ……な、なんか、素直に言われると照れるわね」
「えへへ、そうですね」
「別に俺は、思ったことしか言ってないが」
しかし、思ったことを言わない場合もある。
例えば……セレナが身をよじった時の谷間がすごいとか。
それをいえば、どうなるくらいはわかってるのです。
「わ、わかったから! それじゃあ、始めましょ!」
「は、はいっ!」
「まずは、どうするんだ?」
「アレクはルールくらいわかるでしょ?」
「まあ、そうだな」
アレクの記憶にはあまりないが、前世の俺の記憶にはばっちり入っている。
剣道場の隣がテニス部だったので、よく遊んでいたし。
「じゃあ、私とアレクでお手本を見せるわ。メルルは、それを見ておいて」
「わかりましたっ」
「カエラ、メルルのことを頼む。俺の言いたいことはわかるな?」
「はい、お任せを。ご主人様好みの女に仕上げます」
「何もわかってなくない? 誰がそんなこと言ったよ? 俺は、ルール説明をしてくれって意味で言ったんだが。見てるだけじゃ、わからないこともあるし」
「あら、紛らわしい言い方するからです」
「なに? 俺が悪いの?」
「ちょっと! イチャイチャしてないでやるわよっ!」
「お前も何処を見てんの!? ……はぁ、疲れた。とりあえず、やるとするか」
きりがないので、ひとまずセレナとは反対のコートに立つ。
このラケットの感じ……うん、懐かしいな。
結局、高校生の時の影響で大学のサークルでもやってたし。
……えっ? テニスサークルは女の子と遊んでるって?
いえいえ、そういうのには呼ばれてないので……やめやめ!
「それじゃあ……行くわよ!」
「よしきた!」
かなり早いスピードで来た球を反射的に打ち返す!
「……へっ?」
「ありゃ? ……入ってるな」
俺の打ち返した球は、セレナの位置とは逆方向のコートに入った。
多分、リターンエースってやつだ。
飲み会にも合コンにも呼ばれないから、すっかり上手くなってしまったんだよなぁ。
「な、な……あんた、ほとんど初心者だったわよね?」
「まあ、そうだな」
あくまでも、この世界ではだけど。
うん、嘘は言ってないはず。
「ま、まぐれよねっ! もう一度やるわよっ!」
「ああ、いいぞ」
「今度こそ……それっ!」
「よっと」
打ってきたサーブを再び、リターンエースで決める。
よし、体の感覚が掴めてきたぞ。
「お、おい? ……セレナ様は、女子とはいえ大会常連の方だぞ?」
「それを、いとも簡単に打ち返した……?」
「男子でも、中々取れないのに……」
「そ、そんな……私の玉が……」
静けさの中、男子のそんな声と、セレナの驚く声だけが響く。
あれ? なにやらまずいことをしたかもしれない……。
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