第36話 お城にて
その後、二人で馬車に乗って中央区画にある王城へと向かう。
この国の都市は、王城を中心に成り立っている。
南西には俺たちが住む貴族街、北西には学校や研究所、南東には商業区域、北東には平民達
が住む場所と……大まかに言えば、この四つに分かれている。
「にしても、久々に王城なんかに行くなぁ」
「そうね、アレクがくるなんていつ以来かしら?」
「うーん……下手すると、一年以上行ってないかも」
「い、一年以上……王位継承権第二位とは思えないわね」
なにせ、いく用事がない。
あんな堅苦しいところにはいきなくないし、行ったとしても良い気分にはならない。
そもそも、俺がくるのを嫌がる人たちもいるし。
それこそ第二王妃や、その取り巻きや息子達とか。
俺自身王位には興味ないのに、全くご苦労な事だ。
「仕方ないだろ。俺が行っても、何も良いことないし」
「そ、それはそうだけど……」
「何よりめんどい」
「……もう! そっちが本音でしょ!?」
「ばれたか」
これ以上、セレナに気を遣わせるわけにはいかないな。
というか、俺の婚約者になったばかりに苦労しただろう。
……今の俺が出来るだけ責任を取るしかないか。
よし、セレナに良い男を見つけてあげよう。
◇
王城に着いたら、護衛に案内されてスルスルと進んでいく。
セレナは王女だし、俺は王位継承権を持ってるから当然なんだけど。
ただ、会う人全てが頭を下げてくるのは違和感を覚える。
この辺がまだ、俺の前世の影響があるってことだと思う。
「相変わらず、堅苦しいところだな。静かなのは良いが、空気が堅苦しすぎる」
「当たり前じゃない。ここには、この国の重要人物が揃っているのよ? というか、本来ならアレクも住んでるはずだし」
「そういや、そうだったらしいな」
「そしたら、もっと早く……ううん、だからこそ良かったのかもね」
「なんの話だ?」
「な、なんでもないわ。でも、許されたのはシグルド様がいたからでしょうね」
「まあ、それもあるか」
なにせ王太子のスペアなので、死なれたりしたら困る。
なので普通なら王城で暮らすはずだったが、様々な事情によりそうはならなかった。
まあ、俺としてはこんな所に住みたくないから良いけどね。
そのまま歩いていくと、銀の鎧に身を包んだ騎士がいる扉の前に到着する。
「これはアレク様にセレナ様」
「ロランさん、御機嫌よう。もうお父様はいる?」
「ええ、お待ちしておりますよ」
「ロランさん、お久しぶりです」
えっと……この方は近衛騎士団長であるロランさんだよね。
伯爵家出身の人で、身長も高いし頭も良く顔もよく性格も良い……なんか腹立ってきたな。
まあ、めちゃくちゃ良い人なんだけど。
俺の親父の弟子でもあるから、俺も良く遊んでもらった記憶がある。
「ええ、本当に。その際は、成人の挨拶もせずに申し訳ありませんでした」
「別に良いですよ。貴方がここを離れるわけにはいきませんから。国王陛下を守るのが、貴方の仕事ですし」
「そう言って頂けると助かります」
別に近衛騎士団長というのは、騎士をまとめる人を指していない。
その肩書きは、何より国王陛下を守る者という一点にある。
要は、国王陛下に一番信頼されている人が近衛師団長に就くってことだ。
「それより、こっちこそすみません。多分、うちの親父がご迷惑をかけたかと……」
「はは……昨日は打ち負けてしまい、みすみす国王陛下を連れ去られてしまいましたよ」
「本当にすみません!」
本当に何をやってんの!?
近衛騎士団長をぶっ倒して、国王陛下を攫ったってことだよね!?
「いえいえ、私も自分の未熟さを実感しました。まだまだ、あの方には追いついていないということに。これからも、研鑽を積んでいこうと」
「はぁ……ご立派ですねー、俺はほどほどにしときます」
「何を仰っているのですか。貴方の才能は、シグルド様に勝るとも劣らないというのに」
「煽てても何も出ませんよ」
「いえいえ、思ったことを言ったまでです」
すると、痺れを切らしたセレナにど突かれる。
「ほら、話なら後にしなさいよ」
「おっと、申し訳ありません。それでは、お入りください」
「はぁ、緊張するなぁ」
「一応、公式じゃないから安心して良いからね?」
「そいつは助かる。というか、公式なんかにしたら勘ぐる奴とかもいるから面倒だ」
「……まあ、そういうことね。さあ、いくわよ」
……国王陛下か。
俺としては、悪い人ではないって感じなんだよなぁ。
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