第24話 襲撃?

メルルと遊んだ次の日の朝、今度こそ俺は二度寝して惰眠を貪る。


昨日は早起きしちゃったし、色々とあって疲れた。


外に買い物行ったり、家に帰ってからはマリアがはしゃいだり。


まあ、楽しそうだったから良いんだけどね。


ただ、今日くらいはのんびりしたいところである。


「ふぁ……二度寝最高……お布団の中には幸せが詰まっている」


「ご主人様、まだ寝てるのですか?」


「カエラか……まだお昼の時間には早くない?」


「お昼まで寝るつもりですか? まあ、昨日は頑張りましたからいいでしょう」


「そうそう、たまにはダラダラしないと……ん?」


その時、何やら悪寒を感じた。

次の瞬間、ドタドタと音がする。


「……これは」


「私は失礼します!」


「ま、待て! 主人を置いて逃げるのか!?」


「はい! 私も命は惜しいので!」


「ええいっ! 死ねばもろともよっ!」


窓から逃げようとするカエラの下半身に抱きつき、なんとか引き留めようとする。

犠牲者は二人いた方がマシだっ!


「ちょっ!? ど、どこを触って……というか、どこに顔を埋めているんですか!?」


「イタっ!?」


「も、もう! こんな時に限って! ……あっ、それでは!」


俺をど突いた後、カエラが窓から出て行った。

くそっ、逃げられてしまったか。

しかし、思わずお尻に顔を埋めてしまったが……うむ、中々善き。


「全く、主人を置いて逃げ出すとは何事だ」


「本当に何事じゃろうなぁ……こんな時間まで寝てて、メイドの尻に顔を埋めているとは」


「……そのしがれた声は……」


「誰がしがれた声じゃ。全く、相変わらずだのう」


ギギギと壊れた機械のように俺が振り向くと……。

そこには筋肉隆々とした、逞しい偉丈夫が立っていた。

身長百八十センチ超えで、俺とは正反対の男らしい顔つき。

前の世界でいうと、長髪でロマンスグレーのイケオジって感じだ。


「こ、これは父上、早いお帰りで。どんなに急いでも、予定では夕方とお聞きしてましたが……」


「うむ、その予定じゃった。しかし、可愛い娘に会うために寝ずに走ってきたからのう」


そう言い、自前の豊かな髭を撫でる。

相変わらずの親バカ……いや、娘バカぶりだ。

うちの親父は遅くに結婚したから、もう還暦を迎えている。

故に、愛情もひとしきり強いのだろう……娘には。


「ば、化け物め……」


「むっ? 親に向かって化け物とはなんじゃ! これは久々に鍛錬が必要か!」


「やってられるかっ!」


すぐさま、カエラが出て行った窓から飛び降りる!

脚に気を送り、綺麗に着地したら門の方に向かって駆け出す!


「ほほう! 良い動きじゃ!」


「けげっ!?」


すぐ後ろにいて、俺を追ってきている!

しかも……すでに剣を構えてやがる!


「くははっ! ほれほれ!」


「ず、ずるい! こっちは寝起きで素手なのに!」


「ご主人様! これを!」


すると、先に降りていたカエラが鞘に入った剣をぶん投げてくる。

走りながら、それを空中でキャッチする。


「ありがとう! ただ、できれば助けて欲しいんだけど!?」


「ヨヨヨ、病弱な私にはとても……」


「どこが!? さっき窓から飛び降りたくせに!」


すると、後ろから剣気がほとばしる。

……あっ、まずいこと言っちゃた。


「貴様ぁぁぁ!! か弱気乙女に助けを求めるとは何事だ! そこに居直れい!」


「くっ!?」


後ろを振り返ると剣を抜いた親父がいたので、咄嗟に剣を抜いて合わせる。

そのまま重心を低くして受け流し、そこから思い切り打ち上げ相手を押しのける!

これが身長が低くても、でかい相手に打ち勝つ方法だ。

伊達に記憶は取り戻してねえぜ! ……死んだけど、あの世は見てないけどね!

これがわかったら、貴方は昭和生まれです!


「むっ!? ワシの一撃を押し返しただと?」


「ちっ! やってられるか!」


そのまま飛び上がり、壁の塀を乗り越えて街の中に出る。

当然、その後を親父が追ってくる。


「がははっ! やるではないかっ!」


「もう追ってこないでぇぇ! そもそも、なんで追っかけられてるの!? 俺が何をしたっていうんだ!」


「何をいうか! セレナ様に婚約解消されおって! それならまだしも、その次は留学生であるメルル殿をタラし込んでいるとか! ダラダラするのは良いが、女心を弄ぶのは許さん!」


「なんの話!?」


「都市に入る時に聞いたわ! 昨日の夕方、お主がメルル殿と仲良くデートしていたと!」


「……ご、誤解だっ!」


「問答無用!」


「話を聞けやクソジジイィィ!?」


そのまま都市の中を逃げ回っていると、噴水広場に到着する。

そこには屋台や休憩所があり、人々が談笑していた。

それらが一斉にこちらを向き、ニヤニヤし始める。


「あらあら、久々に見たわ」


「こりゃ、店じまいの準備をするかね」


「おっ! シグルド様だっ!」


「ふぅー! やれやれ!」


みんなが阿吽の呼吸で広場の真ん中に空間を作る。

そして、親父と剣をぶつけ合っているのを楽しそうに眺めている。

これは親父が帰ってくると恒例行事なので、皆がお祭りだとか思ってそう。


「ははっ! 楽しくなってきたわい!」


「楽しくないしっ! みんな! 見てないで止めてよぉ〜!!」


「「「「無理無理」」」」


「薄情者達めえぇぇ!!」


その後、俺は噴水広場にて親父にボコボコにされるのだった。


……どうしてこうなったァァァァ!








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