第27話 若いと大変

結局、その日親父は帰ってこなかった。


ただ、これは別に変なことではなく……。


あの親父は飲兵衛なので、仲のいい騎士団の連中と飲みにでも行っているのだろう。


そして、夕方辺りに帰ってきてマリアに怒られるまでがセットである。


「ふぁ……まあ、平和で良いわ」


「ご主人様、おはようございます」


「……あのさ、風呂上がりの時にナチュラルに入ってこないでくれない?」


寝起きのシャワーを浴びて出たら、何食わぬ顔で部屋の中にいるし。

前に、やめなさいって言ったのに。

特に、最近の俺の身体は……危険がいっぱいです。


「はて? なんのことやら?」


「カエラさん?」


「ヨヨヨ、私の楽しみが……これは旦那様に言いつけないと。ご主人様が、いきり立ったモノを私に見せてくるんですって」


「やめてェェ!!」


ただでさえ、めちゃくちゃ筋肉痛なのに!

そんなこと言ったら大変なことに!

というか——この二日間、全然休んだ気がしないよっ!


「さて、冗談はさておいて……」


「冗談になってないからね? とりあえず、部屋を出てくれない?」


「はーい、仕方ありませんね」


前をタオルで隠しつつ、何とか部屋から追い出す。

いや、アブナイアブナイ。


「……バレてないよな?」


思わず、タオルに隠された自分の下半身を確認する。

そこには、いきり立った息子がいた。

いや、若いから当然ではある……しかも、いわゆる寝起きなので。

あと、疲れてる時はそうなるとか……男の子のみんなはわかってくれるよね!


「最近の悩みがこれなんだよなぁ。というか、違和感しかない」


なにせ、前世ではアラフォーである。

そりゃもう、年齢の割にほぼ役立たずだったし。

若い時の感覚というか……うん、そういう気分の日は大変そうだ。


「正直言って、持て余してる感はある。記憶を取り戻す前は、そこまでじゃなかったんだけど」


そもそも、この世界にはそういう店もあるが、公爵家嫡男が行くわけにはいかないし。

下手なことすると、王族の血がどうたら。


「……やっぱり、運動で発散するしかないか。まだ結婚なんかするつもりもないし」


面倒だが、背に腹はかえられぬ。

そう思った俺は、急いで学校の支度をするのだった。

その後、マリアと一緒に朝ご飯を食べる。


「まったく、お父様ったら。昨日、帰ってきませんでしたわ」


「まあまあ、父上も付き合いがあるだろうし。ああ見えて人気者だしね」


「そうですけど……心配ですわ。なんだかんだで、もう還暦を迎えてますから」


この世界の寿命は、医療が発達した前の世界より短い。

だいたい、七十歳くらいだから短すぎてはないが……あと十年と考えれば短いか。

マリアが心配するのも、無理はないか。


「……安心して良い」


「お兄様?」


「不肖の息子だけど、俺なりに父上の負担を減らしていくさ」


「お、お兄様! セバスッ! 今日はお祝いですのっ!」


「はっ! お嬢様っ! すぐに店の予約と楽器団を……」


「だから良いって! たまには良い話をさせてぇぇ〜!」


「えへへ、つい……」


そう言い、舌を出して笑う。


まあ、可愛い妹が楽しいならいっか。


食事を終えたら!いつものように馬車に乗って学校に向かう。


「今日はどうするのですか?」


「予定では、セレナに頼んで部活をやろうかなと。だから、迎えも来なくて良いよ。帰りも歩いて帰るからさ」


「おや? どういう風の吹き回しですか?」


「いや、大したことじゃない。結局、あの日から一度も行ってないし。それに、あの親父と付き合うのには体力がいる」


「ふふ、それはそうですね。では、私もゆっくりしてます」


流石に、本当のことを話すわけにはいかない。

そんなことを言ったら、俺の貞操がアブナイ。

私が処理しますね!とか言いそう。

そして、それを断れるかと言われると……難しいところだ。

おそらく……手を出したら最後な気がする。

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