第3話 風紀委員
「お、おい。白中が立ち上がったぞ」
「う、うん。何するつもりなんだろう?」
お手洗いを済ませるために、自席を晴斗が立っただけで、周囲は騒がしくなる。
皆が怯えるように、晴斗の一挙手一投足に目を向ける。今泉と同じようになるのを避けるために。
(なるほど。みんな俺に恐怖を抱いてるんだな)
クラスメイトの反応に登校時は怪訝を抱いた。先日までいじめを受けていた人物に大半のクラスメイトがビクビクするのは不自然だ。
だが、時折聞こえるひそひそ話や頭を稼働させることで、クラスメイト達が警察を呼んで、今泉をクラスから消した晴斗を恐れている。この結論に達する。
(変な感じだな。俺がいじめを受ける際は、笑ったり俯いたりしていた傍観者がな。まさか、いじめ実行者の岸本と今水並に怖気付くとは)
呆れつつも、自身がクラス内で優れたボジョションに位置する自覚も持つ。
意識的なその事実を理解するなり、優越感により気分は高揚する。悪い気分ではなく、どちらかと言えば、いじめを受ける際には得られなかった勝利のような喜びを知覚する。
特に優しい言葉を周囲に掛けずに、権力者のように晴斗は教室を歩き、後ろの戸から退出する。
誰も邪魔する者は存在しない。中には邪魔だと認識し、道を譲る者もいる。
お礼も言わずに勝ち誇った気分で、クラスメイトの横を通過し、教室と廊下の境界線へ差し掛かった。
「君がいじめを受ける最中に警察を呼んだ白中か?」
晴斗がお手洗いを済ませ、廊下を介して教室へ帰還する最中、メガネの美少女から声を掛けられる。
美少女は腕に風紀委員を象徴するワッペンを装備する。
(風紀委員。しかもメガネの美少女? もしかしてこの人は…)
「悪い悪い。自己紹介がまだだったな。あたしの名前は
黒髪ショートヘアのメガネ美少女は簡潔にセルフイントロデュースする。
「う、うん。そうなんだ。俺は白中晴斗」
(まじか! 雫さんって美少女で学校でも超人気な女子だよね? )
架純には平然と対応するが、実際は内心で戸惑いを隠せない。
学校で有名な美少女な上、初対面の女子に突如話し掛けられ、気が動転する。
「それにしても君は面白いな〜」
くいっとメガネを上げた後、薄く笑みを浮かべながら架純は晴斗の顔を覗き込む。
美少女と目が合い、ドキッとする。綺麗な紺色の瞳だ。
身体は正直であり、晴斗はわずかに後ずさる。
「いくら学生カバンで殴られたとはいえ、先生に助けを求めずに警察へ電話するとは。素晴らしい勇気だ」
「いや。あの時は身の危険を感じて。冷静な判断が叶わなかったから」
当時を回顧しながら、晴斗は理由を説明する。嘘偽りは存在せず、当時の心境を思い返しもする。
「君の勇気ある行動のおかげで学校の風紀が向上されたわけだ」
嬉しそうにうんうんと、架純は縦に頭を振る。
「あたしは白中、君に興味を持った。これから会った際は積極的にコミュニケーションを取ると思うから宜しく!」
ポンッ。
優しく晴斗の肩に触れ、架純はその場から立ち去る。
晴斗の右肩には架純の手が触れた感触が抜けない。
(な、なんてことだ〜〜)
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