第16話 彼女にフラれる

「どうしたの? 急に大事な話があるって」


 帰りのホームルーム終了後。岸本は人気のない場所で彼女の山本玲香と合流する。


 午前中に玲香からレインを介してメッセージがあった。


 岸本はレインのメッセージを読んで、この場に足を運んだ形だ。


「うん。非常に大事なことを伝えるために、わざわざ放課後に対面で会ったの」


 彼女にも関わらず、玲香はどこか他所他所しい。


「お、おう。話は聞くぞ」


 玲香の真剣な表情に呼応して、岸本に緊張が走る。ぴんっと背筋も伸びる。


「いきなりだけど、玲香は今日を持ってあなたと別れる」


「は? 」


 衝撃的な切り出しに、素っ頓狂な声を漏らす岸本。目も大きく見開く。


「何言ってんだよ。冗談だろ? 最近、付き合って半年が経過したばかりだろ? 」


 半笑いの笑顔を岸本は浮かべる。顔から動揺が透けて見える。


「冗談じゃない。玲香は本気だよ。いじめに加担する人間と付き合い続けるなんて論外だから」


 玲香の目は実に冷ややかだ。完全に岸本を軽蔑する。


「っ。もしかして風紀委員の週報を読んだな。確かに俺はいじめをしていた。だが、メインは今泉だったんだよ! 」


 言い訳を岸本は始める。すべての責任を今泉に擦り《なすり》付ける。


「いじめの強力者なんでしょ? 見苦しい」


 玲香の態度は変わらない。目を細めてうんざりした様子だ。


「それにだ! いじめの何が悪いんだよ! どいつもこいつも敏感に反応しすぎだって。あのな、いじめられる奴が1番悪いんだよ! この世は弱肉強食なんだからな。強者がある程度は許されるべきなんだ! 」


 パーーン。


 周囲に甲高い音が響く。


 玲香が岸本をビンタしたのだ。


 岸本の頬には玲香の掌跡がはっきり刻まれる。


「へ? 」


 腫れた頬をゆっくり岸本は触る。まるで肌の調子を確かめるかのように。


「…最低…。本性を露わにしたわね。本当に腐った性根ね。別れを切り出して正解。さようなら。もう一生関わる機会はないから」


 冷酷な口調で捲し立て、玲香は岸本の横を通過する。完全に置き去りにして、その場を立ち去ろうと試みる。


「お、おい! ちょっと待て玲香! 俺と別れないでくれよ! 俺にはお前が必要なんだ。おい! 無視しないでくれよ!!」


 玲香の背中に必死に叫ぶ岸本。だが、玲香は一切振り返らない。ただ前だけを見据える。


「俺はまだ玲香のことが大好きなんだ! 突然の別れなんて堪《た》えられないよ!! 」


 全面的にに対する気持ちを伝える。


 しかし、既に時遅し。


 玲香の視界に岸本は映らない。映す気すら見受けられない。


 無様に岸本は玲香の背中に訴え掛け続けた。


 玲香の背中が消えてもなお。


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