第53話 自宅でハーレム勉強

「ねぇ、ここがわからないんだけど。数学の問題」


「おう、どうしたどうした。理系の問題ならあたしが専門だから優しく教えて差し上げよう」


 架純は、僕と肩をくっつけながら勉強を教えてくれるのだった。晴斗の自室のテーブルで彼の真横に座りながら。


「ちょ!? 近いよ架純! 」


 晴斗が珍しく大声を上げる。その表情にはどこか焦りが見えていた。


「そうか? あたしは別に気にしないけどなぁ~」


 対する架純はあっけらかんとした態度でいる。


 (……架純は、わざとやってるのか? 嫌々考えすぎだろ)


 そんなことを思いつつ、晴斗は問題を解くべくノートに視線を落とす。


 すると――

 

 晴斗の左肩に架純の手が置かれた。そして、耳元に吐息がかかるほど近くに架純の唇があることに気づく。


 心臓の鼓動が激しく脈打った。顔から火が出るんじゃないかと思うくらい熱い。


(俺は今どんな顔をしているんだろう。変な顔をしていないだろうか)


 緊張で体が強張っているため、架純の顔を見ることが出来ない。だが、彼女は僕の耳元で囁いた。


 それは、まるで悪魔のような甘い誘惑の言葉。脳に直接響くような甘美な響き。


 架純の声を聞いた瞬間、背筋にゾクッとする感覚が走る。


「ちょっと~! 文系の問題で分からない問題はそこまで無かったのに。なんで理系の問題ばかり雫さんに聞くの~」


 不満そうに千里が頬を膨らませる。


「ごめんね。俺、理系が苦手なんだ」


 晴斗は困ったように苦笑を浮かべた。普段通りに接しようと心掛けているのだが……今日はやたら距離感が近く感じる。


「それにしても。多すぎるよ。うちも白中君に頼られたいよ~」


 千里は晴斗の横腹をツンツンと指先で突っついてきた。


「おわっ! いきなり何すんだよ!」


 思わず飛び跳ねてしまう晴斗。


「ははっ。残念だが理系が苦手な奴に教えることは出来んぞ?」


 挑発するように架純が得意げな笑みを作る。


「……ぐぬぬぅ」


 千里は悔しそうな表情をして恨めしげに睨み付けてくる。


「ほれほれ。早く解かないと終わらないぞ」


 架純は晴斗に数学の問題を教えながら、身体を密着させる。胸や柔らかい手足が晴斗の身体に触れる。


(……おいおい。頼むからこれ以上刺激を与えないでくれよ)


 そんな切実な願いを胸中で呟きながら、晴斗は問題に集中することにした。


「ぐ~。うちも負けられない! えい~!! 」


すると、今度は晴斗の腕にしがみついてきた。


 腕に押し付けられる大きな膨らみの柔らかさに意識が集中する。


「ちょ!? 橘さんまで何をしてるんだよ!」


「えへへぇ。いいじゃんこれぐらい♪ あぁ~癒される~」


 悪戯っぽく笑う千里に晴斗は何も言えなかった。


「お、おい! なんでお前が晴斗に抱きつくんだよ!」


 架純は慌てた様子で、千里を晴斗から引き剥がそうとする。


「むふふ。さっきのお返しだよぉ~だ!」


 千里は架純を煽るように舌を出して挑発する。


「こいつ……」


 怒りを抑えきれないといった感じで歯ぎしりをする架純。


 2人は晴斗を奪い合った。


 そんな最中、晴斗の部屋が開く。


「失礼~。ちょっとお菓子持ってきたわよ~」


 洋子が部屋の扉を開けるなり、室内の光景を見て固まる。お盆にはクッキーやチョコレートが載る。


「ちょっと! 2人共~。晴斗成分を補充しているなんてずるいわよ~」


 素早くテーブルにお盆を置き、洋子は後方から晴斗に抱きつく。


「うおっ!?」


 突然のことに驚く晴斗だったが、背中に当たる豊満なバストの感触に頬を赤らめた。


「あらあら。晴斗く~ん。顔が赤いわね~」


 ニヤリと口角を上げる洋子。その瞳は妖しく光っていた。


「こ、このお母さんすごいな」


 目をパチパチしながら、架純と千里は唖然としていた。

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