第11話 正反対

「ねぇねぇ。今日一緒に帰らない? 」


 帰りのホームルーム終了後、笑顔で祐希が晴斗の席に駆け寄る。


 風紀委員の週報効果もあり、以前よりクラスはざわつかない。何人かの生徒は友人との雑談や帰りの支度に集中する。


 一方、相変わらず何人かの生徒は驚き、動揺を隠せない。敏感な反応を示す。


「そ、それは構わないけど」


 突然声を掛けられキョどる。未だに祐希との会話も慣れない。もちろん架純に対しても同様だ。


「やった! じゃあすぐに帰りの支度を済ませてくるね」


 ご機嫌なテンションで、パタパタと祐希は自席へ帰還する。


 言葉通りテキパキと帰りの支度を開始する。教科書やノートを素早く学生カバンに投入する。鼻歌を混じえながら。


「よぉ! 白中! 一緒に帰らないか?」


 ポンッといきなり架純に肩を置かれる。柔らかく小さい手の感触が晴斗の右肩に伝わる。


「うわぁ〜。…し…雫さん〜!」


 突然肩に触れられ、晴斗は驚嘆な声を漏らす。


 架純の行動が不意を突いたのもあったが、相手が架純だったことが大きな要因だ。


 晴斗の肩に手を置いた人間が架純でなければ、ここまで驚かない。


「そんなに驚くなよ。なんか少し恐れられてる感じがして気分が下がるだろ」


 シュン。


 わずかに架純から暗いオーラが漂う。らしくない。いつもクールで凛とした架純には似合わない。


「ああ。ごめんごめん! びっくりして大きな声が漏れただけだから」


 バタバタと胸の前で両手を振りながら、どうにかして晴斗は架純を慰めようと試みる。


 自身の行動が起因して架純の気分を低下させた。そう思うと単純に罪悪感を覚えた。


「うむ。そうかそれなら良かったが」


 晴斗の言葉を信じ、少しだけ架純の機嫌が回復する。暗いオーラは幾分か抹消される。


「白中君お待たせ〜! 」


 踊るような足取りで祐希は晴斗の元に到着する。


 晴斗と少しでも同じ時間を過ごしたい。


 そんな気持ちがびんびんに伝わる。


「あれ? この人は風紀委員の雫さん? 」


 不思議そうにコテンッと祐希は首を傾げる。


「学級委員の野末祐希か」


 架純と祐希の目が合う。数秒間、静かに2人は見つめ合う。牽制し合うように。


「雫さんは白中君に何用で? 」


 祐希から口火を切る。


 無言で静寂な空気を崩した。


「ああ。あたしは白中と一緒に帰りたい。だから一緒に帰る予定だ」


「そうなんだ。奇遇だね。私も同じなんだ」


 バチバチバチバチ。


 架純と祐希の視線がぶつかる。2者間で盛大に火花が散る。両者共に主張を譲る気はさらさら無い。


「あ、あの2人とも顔が怖いよ? 」


 争いごとが起こるのではないか。不安や恐怖に支配され、口を挟む晴斗。


 2人の機嫌を上手に宥められないか、解決策を発見するために頭を稼働させる。


「白中はあたしと一緒に帰るよな! 」


「違うよね! 白中君は私と帰るもん! 」


 架純と祐希は晴斗へ顔を接近させた後、各々に彼の腕をホールドする。胸と両腕で抱きしめるようにしてホールドする。


「ちょ!? 」


 素っ頓狂な情けない声が漏れる。


 無理もない。架純と祐希と柔らかい手の感触。祐希の豊満な胸の理性をゴリゴリ削る弾力ある感触。


 これらの刺激がダブルで晴斗を襲う。


「あたしと帰るんだ! 」


「いや私と帰るの! 」


 子供のように架純と祐希は言い争う。


 晴斗を手に入れかのように、グイグイお互いに自身のサイドへ彼の腕を引く。


 当然、言い争いはクラスメイト達に届く。


 クラスメイト達は口を半開きにし、唖然とする。半ば呆れる生徒もある。


「ちょっと。2人共落ち着いて」


 右に左に引っ張られる晴斗。


 ゴリゴリ体力は削られ、息も荒れる。


 だが、晴斗の声掛けも虚しく、架純と祐希の言い争いは止まる気配が見受けられない。逆によりヒートアップする。


「おいおいまじかよ」


「なんで学級委員の野末が白中と」


「なんで風紀委員の雫が白中と」


 同じような言葉を岸本と今水は紡いだ。


 ポツンッと2人だけの世界を形成しながら。


 信じられない顔で岸本も今水も目の前の光景を視認する。


 風紀委員と学級委員の美少女が晴斗を奪い合う光景を。


 まさに晴斗は青春している。


 風紀委員の週報によって限りなくスクールカーストの序列が下がった岸本と今水は正反対だった。


 岸本と今水は完全に孤立しているのに対し、今の晴斗は架純と祐希から熱烈なアピールを受けていた。

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