第28話 自宅訪問(架純)

「今日はうちに来ないか? 」


 帰路に就きながら、架純は1つの提案をする。隣には晴斗の姿がある。


「それは構わないよ。ただ家は大丈夫なの? ご家族とか」


「問題ない。両親は共働きで深夜にしか帰宅しない仕事人間だからな」


(てことは、あの学年で有名な雫さんと2人きりで過ごすのか。しかも雫さんの自宅で。やべぇ〜)


「それでは向かうか。学校からはそこまで遠くないわ徒歩10分ほどで到着する」


 晴斗は架純に案内されながら、彼女の自宅へと進む。


「禁著の話なのだが。購入した10巻はすべて読破した。実に満足した。設定も素晴らしいし、考えさせられる。能力系なのも最高だ」


「異常な読みスピードだね。まだ購入して1週間も経過してないよね? 」


「そうか? 1日2冊ずつ読破したから5日ほどで読み終わったな」


(いやいや早すぎるよ。俺なんて1冊読むのに3日ほど時間を消費するからね。よくそこまで集中力が持つな)


 素直に感心する。


 晴斗と架純では脳の構造と能力に大きな違いがあるのだろう。


「は、晴斗は以前に購入したラノベは読破したのか? 」


 名前呼びを始めてから数日が経った。未だに架純は呼び慣れない。


 当然、晴斗はもっと呼び慣れない。基本的に架純を名前で呼ぶことを避けている。最近では名字呼びすらしない。名前呼びしないと注意を受けるためだ。


「ああ。『彼女にフラれたらメガネ美少女達に好まれた』の2巻のことだよね。3日間ほど掛けて読破したよ。ヨムカクで投稿される内容とは大きく異なってはいるけど、書籍は書籍で特有の面白さがあったよ」


 趣味の話になると、晴斗は饒舌になる。テンションの高まりを抑えられない。


 架純はテンションの変化はせず、凛とした口調だが、ラノベの話になると口数が非常に増加する。


「そうか。それはよかった。それと今度、機会があれば、あたしに貸してくれないか? 」


「わかった。貸して欲しい時はいつでも言ってね」


「おっ。話に盛り上がってたら、我が自宅に到着したな」


 架純は四角の一軒家の前で立ち止まる。黒1色の3階建ての住居だ。


 場所は岡山の西大寺の住宅地である。周囲にも複数の一軒家が並ぶ。だが、近隣の住宅と比べて頭1つ抜けて架純の自宅は大きい。圧倒的な存在感を放つ。


「お〜い。呆然としないで入るぞ」


 自身の自宅に興味を示さず、架純は鍵を用いてドアを開ける。


「入ってくれ。別に気を使わなくていいからな」


 架純に促され、晴斗は彼女の自宅に足を踏み入れる。


(うわ。玄関広っ)


 晴斗の自宅の3倍はある廊下が眼前に出現する。廊下は長く長く続く。おそらく5メートルはあるだろう。


 靴箱辺りも綺麗に掃除されており、靴が20足ほど並べられそうだ。


「ほい。スリッパ! 」


 架純から来客用スリッパを受け取る。両足に通す。既に架純はスリッパに足を通す。


「あたしの部屋は2階だから上がるぞ」


 廊下の中央に位置する階段を登る。


 将来の生活を考慮しているのか。バリアフリー付きだ。


「ここがあたしの部屋だ」


 架純の部屋に通される。


(すごいな。これが1人部屋なの? )


 縦横6メートルほどの部屋だった。1人で使えるとなると贅沢だ。


 部屋にはベッド、勉強机、タンス、大量にライトノベルが並ぶ本棚といった家具しか存在しない。


 部屋にある物は非常に少ない。


 ミニマリストなのか。それとも必要最低限の物しか置かない主義なのだろうか。


「それにしてもすごいね。このライトノベルは全部読破してるの? 」


 合わせて1000冊は余裕で超えるラノベを眺める。


 晴斗の部屋にもライトノベルは100冊ほどある。だが、たかが100冊だ。霞の所持する数とは次元が違う。


「ああ。すべて読破している。どれも購入したら即座に読書に着手するからな」


「そうなんだ。これ全部か〜。ラノベに関する知識は以上に保持してるわけだ」

 

 左から右に流れるように、晴斗はライトノベルのタイトルを追う。


 存じ上げないタイトルも、ちらほら目にする。


「さて、そろそろ始めようか。楽しい楽しい共通の趣味に関するお話を」


 勉強机のイスに腰を下ろし、嬉しそうに架純は微笑を浮かべた。今後の未来に期待するように。

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