第29話 お風呂
「夕方になったし、入浴だけでもしていくか? 学校から直接足を運んだわけだから少なからず汗は掻いているだろ? 」
架純は1つの提案を提示する。
時刻は18時。
晴斗と架純は3時間ほど共通の趣味であるライトノベルの雑談に勤しんだ。
各々が好きなライトノベルの作品やキャラクターについて会話した。
架純の饒舌ぶりは凄まじかった。普段の風紀委員としての凛とした態度とは一線を画する。
表情は一定だが、口調は通常よりも明るかった。
晴斗自身も趣味の話になると饒舌に変貌する。だが、架純は次元が違った。まあ話す話す。架純からすらすら言葉が吐き出されていた。
「確かに汗は掻いてるよ。正直、身体中がジメジメするかな」
「そうか。じゃあ少し待っててくれ。今から2階のお風呂を沸かしてくる」
「あっ。別にそこまで気を遣わなくていいよ」
返事を待たずに足早に架純は退出する。
(2階のお風呂? 他の階にもあるのかな? まさか全ての階にお風呂があったり? この広さならあり得そう)
架純の部屋全体を見渡す晴斗。
1人部屋にしては大きすぎる空間。
(いいなぁ。こんな大きな1人部屋が欲しかったな)
ない物ねだりを始める。
「お待たせ! 後3分ほどで2階のお風呂が沸くから。もうしばらく待ってくれ」
架純が自室に帰還する。
3分後。
『お風呂が沸きました。お風呂が沸きました』
お風呂の沸いた事実を合図する女性の機械音が、部屋の外から届き、晴斗の鼓膜を刺激する。
晴斗はこの機械音に聞き馴染みがある。なぜなら、晴斗の自宅の機械も機械音は先ほどの女性の声が吐き出されるためだ。
「お風呂が沸いた合図だな。どうぞ晴斗。バスタオルは準備済みだから入浴して来な? 」
「本当にいいの? 家族以外の人間がお風呂に浸かるんだよ? 汚いとか思わない? 」
「遠慮するな。それに晴斗だからお風呂に入浴していいんだ。だからお言葉に甘えてくれ」
架純は意味深な言葉を交える。
「…わかった。じゃあ、お風呂お借りするね」
緊張感を抱えながら、早足で晴斗は架純の部屋を抜ける。他人の風呂に浸かる。緊張するのも無理はない。
お風呂の場所を手探りで発見し、入室する。
お風呂に面するように洗面所も存在する。
(それにしてもすごいな。2階に洗面所も設置されてるのか。雫さん。じゃなかった。架純の家は絶対にお金持ちだな)
制服を脱ぎ、丁寧に畳み、床の端に重ねて置く。ズボンを下にカッターシャツ、肌着、ブレザーの順に載せる。
ガチャ。
お風呂場のドアノブを捻る。
「うわぁ。予想通りお風呂もすごいなぁ…」
自然と驚嘆の声が漏れる。
浴槽は高級ホテルのようなサイズで、風呂場全体も広い。縦横4メートルはあるだろう。
その上、ピカピカに清掃されており、見たこともないシャンプー、コンディショナー、ボディーソープの容器がいくつもある。
「おっと。いつまでも呆然としているわけにはいかない。さっさと身体を洗ってしまおう」
晴斗はジャンプで髪を洗い、身体全体をボディーソープで清潔にする。
他者のお風呂場なため、シャンプーやボディーソープを探す際は結構苦労する。
ルーティンのお風呂場での作業を全て終え、浴槽に浸かる。
程よい温度のお湯が身体全体に沁み、心地よい。
カチャ。
突然、お風呂場の扉が開く。
「え?」
晴斗の表情が固まる。
予想外の人物が入室してきたためだ。
「よ、よう晴斗。お風呂加減はどうだ? 」
緊張した面持ちで架純が姿を現す。
制服は脱いでおり、身体全体にバスタオルを巻く。
「なんで入ってきてるの!? 意味がわからないよ! 」
後退り、晴斗の背中は壁に衝突する。普通ならば痛みを覚えるだろうが、今はそれどころではない。
「同士の晴斗と裸の付き合いをしたくてな。流石に全裸は無理だが、バスタオルを巻いてお風呂ぐらいはいいだろうと」
「良くないよ! ど、同士だからって無理があるよ」
即座に晴斗はツッコむ。動揺は隠せない。
無意識にあそこは反応し、ムクムク大きくなる。現在の状況に自然と身体は性的興奮を覚える。
「そうなのか? ただもうお風呂場に足を踏み入れてしまったからな」
架純は強引にお風呂に一緒に浸かろうとする魂胆だ。どうしても一緒にお風呂に入りたいらしい。
「と、とにかく。俺にもバスタオルを貸して! だ、大事なところを隠さないといけないから〜」
「りょ、了解した」
晴斗は架純からバスタオルを受け取り、すぐに股間辺りに巻く。股間はお湯に浸かるため、バスタオルは多大なお湯を吸収する。
「流石にこの状況では、あたしも身体を洗えない。だから、浴槽に失礼するぞ」
チャプン。
恐る恐る架純は浴槽に身体を侵入させる。
シミやニキビなど皆無な日本人特有の黄色い肌がお湯に吸い込まれる。
綺麗な肌に晴斗は釘付けになる。目を離すことができない。
完全に架純はお湯に浸かり、晴斗の隣に座る。
(え…。この状況って結構やばくない? )
「なんか緊張するな。同級生の異性と初めてお風呂に入ったからか」
堂々とした態度を普段から露わにする架純がぎこちない。珍しく視線も彷徨わせる。
「雫さん。じゃない。か、架純は今まで同級生の異性とお風呂に入ったことがないの?」
「なんだ意外か? 」
「うん。架純はモテるから何人もの男子とお風呂ぐらいは一緒に入った経験があると思ってた」
「そんな男慣れはしてないよ。あたしは恋愛経験もない。人生で彼氏もできた経験もない」
「へぇ〜それも意外」
(こんなに美少女なのに)
「自身が欲しなかったことも起因しているがな」
それからは簡単な言葉を交わし、両者共に耐えられず、お風呂から退散する形になった。
お互い無言でバスタオルで身体を拭いたのだった。
裸を隠すように背中を向けながら。
「さ、流石にまだお風呂は早すぎたみたいだな」
「そ、そうみたいだね」
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