第30話 ハーレム

「白中君~。お話しましょ~」


 休み時間終了直後。ご機嫌に鼻歌交じりに祐希が晴斗の席まで足を運ぶ。


「いいよ。それにしても野末さんは友達と話さなくてもいいの? 授業終了後、毎回俺に話し掛けに来てるけど」


「いいのいいの。私が白中君とお話したいだけだから。もしかして迷惑だった? 」


 祐希の瞳が悲し気に揺れる。


「そ、そんなこと決してないよ。その点は安心して」


 即座に否定する。祐希との会話は多少なりとも気を使うが、嫌悪感を抱いたことはない。


「それならよかった」


 祐希は安堵した表情を見せる。少なからず不安があったようだ。


「晴斗~。ラノベに関する話でもしないか」


 教室の後方の戸から足を踏み入れ、架純が姿を現す。


「むっ。野末も晴斗に用があるのか? 申し訳ないが、あたしが最優先だ。先に話し掛けたなど関係ない。 晴斗はあたしとラノベに関する話をしたいよな? 」


「それは理不尽だよね。流石に自分勝手すぎるよ。それと、何で白中君を下の名前で呼んでるの? 白中君が了承したの? 」


 真剣な表情で架純と祐希は晴斗を直視する。決して目を逸らさない。


「う、うん。架純とはお互いに名前で呼び合ってるよ」


 架純と祐希から感じる威圧感に耐えながらも、ぎこちなく頭を縦に動かす。根拠となる理由を添えて。


「ははは。そういうことだ。あたしと晴斗は既にここまで親しい関係にある」


 腰に両手を当て、架純は勝ち誇る。


「う、羨ましい~。ねぇねぇ私のことも祐希って呼んで! 私は晴君って呼ぶから!! 」


「さ、流石にいきなりすぎるよ。いきなりは難しいかな」


「そうか…。でも晴君って呼んではいい? ねぇいいよね? 」


(近い…。顔が近すぎる)


 前のめりになり、祐希は顔を接近させる。晴斗と顔の距離が目と鼻の先だ。祐希の体温も当然伝わる。


「おい! 距離が近すぎだ!! 晴斗が困ってるだろ! それと気安くあだ名で呼ぶな!! 」


 架純は強引に祐希を引き剝がす。意図的に晴斗から距離を作る。


「むぅ~。自分は晴君を名前で呼んでるくせに~」


 不機嫌に祐希は頬をぷくっと膨らませる。


「あたしは晴斗から許可を得ているからな。問題ない」


 ぎゃあぎゃあ架純と祐希は晴斗の目の前で言い争いを繰り広げる。以前と同様に治まる気配は無い。


「ちょっと2人とも落ち着いて」


 春斗は架純と祐希を宥めるように努める。


 しかし、両者ともに一切聞く耳を持たない。


「ねぇねぇ。うちも会話に混ぜてくれない? 白中君とお話ししたいから」


「2人だけで白中晴斗君を取り合わないで欲しい。彼はあなた達のものではないから」


 晴斗の席に生徒会書記の千里と岸本の元カノの玲香も訪れる。


 柔和な笑みを絶やさない千里。不満そうに胸の前で腕を組む玲香。


 晴斗は4人の美少女に囲まれる形になる。


「おいおいまじかよ。あのメンツやばくないか」


「風紀委員の雫さん。学級委員の野末さん。生徒会書記の橘さん。学校を強制的に退学させられた岸本の元カノの山本さん。学年でも指折りの美少女達じゃないか」


「なんであの陰キャでいじめを受けてた白中が美少女達に取り囲まれるんだ。くそ! 羨ましすぎる」


 クラスメイト男子達は嫉妬の視線を晴斗に集中させる。男子からすれば夢のようなシチュエーションだ。


 だが、残念ながら彼らは羨むことしかできない。不平不満をこぼしながら成り行きを傍観するしかない。晴斗がいじめを受けていた時に彼らが取った行動と同じように。


「なになに。あの学年でも有名な美少女達がどうして白中君の周りに集合するの」


「何かうざいよね。リア充感漂わせて」


「男子にあれだけ注目されて。本当にムカつく」


 一方、クラスメイトの女子達は架純たち美少女に対する嫌悪感を募らせていた。女子なりの同性に対する嫉妬だろう。自身よりも目立つ架純達が気に食わないのだろう。


 いじめを受けていた当時、晴斗のスクールカーストはクラス内でも底辺だった。これは周知の事実だ。


 だが現在、いじめの傍観者であったクラスメイト達よりも晴斗の方がクラスカーストは上位だ。


 なぜなら、美少女4人に囲まれ、周囲のクラスメイト達から羨ましがられる境遇にいるからだ。疑う余地もない。


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