第27話 保健室において
「ふぅ〜。なんかダル」
晴斗は早朝から身体がだるかった。
登校して風紀委員の週報で岸本と今水が退学になった事実を知った。岸本と今水の席はさっぱり消えていた。
そこで今まで少なからず負担になっていた恐怖やプレッシャーから解放された。そのため、いきなりドッと身体に疲労が押し寄せた。
それが原因で結果として朝のホームルーム辺りから、身体がだるい。プラスで頭痛も感じてたりする。
ガンガン鈍い痛みが頭全体に行き渡り、授業に全く集中できない。
普段、字が汚いながらも全部ノートに板書するが、今日は通常の半分ほどしかライティングできていない。
頭痛が起因し、頭も働かない。
「どうしたの? 体調悪そうだよ? 」
祐希が心配してくれる。
「そうなの? 実際に身体がだるくて頭も痛いからね」
包み隠さずに正直に打ち明ける。誰かに話すことで幾分が楽になる。
祐希に体調不良を認知してもらい、やんわりと不安が軽減する。
「それはいけない。ちょっと失礼するね」
祐希は自身の額と晴斗の額を合わせ、体温を測る。
(は? ちょっ!?)
突然の祐希の行動に戸惑いを隠せない。額を通じて祐希の体温を直で知覚する。
「お、おい! 見ろよ! 」
「まじかよ! いじめを受けてた奴、野末さんと額を合わせてるだと…」
「羨ましすぎる! あいつ俺と場所変われ」
「うわぁ。何か羨ましい」
「ザ陽キャだよね」
男女共に嫉妬の感情が溢れ出す。特に男子からの嫉妬は異常だ。それほど祐希は美少女であり、クラスでも人気のある生徒だ。
この男女の大半はいじめを傍観したクラスメイト達だ。
「う〜ん。ちょっと熱いかも。初めてやったから正確な体温までわからない。とにかく保健室に一緒に行こ! 」
「う、うん。そうだね」
顔を赤くしながら、歯切れ悪く晴斗は応答する。
頭が働かない。
間近で視認した祐希の整った顔立ちと体温が脳内を支配する。頭にこびり付いて離れない。
「早く行くよ! 」
自席から微動だに動かない晴斗に痺れを切らし、祐希は強引に手を引く。
「おぉ。ちょっと待って! 自分で歩けるから!」
ようやく晴斗は我に帰る。
手を引かれたまま、足だけを稼働させ、祐希と共に教室を退出する。男女のクラスメイト達から視線を集中して受けながら。
「失礼します」
保健室に到着する。現時点で休み時間なため保険の先生が恐らく室内に身を置くだろう。
だが想定は外れる。保険の先生は留守だった。
保健室を隈なく探索しても発見できない。他の仕事で呼び出しでも喰らったのだろうか。
「おかしいな。でも体調の悪い白中君をこのままにはしておけないし。とにかく熱測ろっか」
保健室に常備された体温計を、祐希は差し出す。
「ありがとう」
お礼を述べ、左脇に体温計を差し込む。
「大丈夫? しんどくない? 症状は悪化してない? 」
明らかに心配そうな瞳で祐希は尋ねる。
「うん。症状は悪化してないよ。ただ、だるさと頭痛の程度は変化してないけど」
祐希の心境を推量し、安心させるために笑顔を交えながら晴斗は自身の健康状態を伝える。
ここで嘘を吐いても逆効果なのは容易に推定できる。
「そっか」
ピピピ。
丁度、体温計が機械音を吐き出す。どうやら体温測定が完了したみたいだ。
左脇から体温計を取り出す。
「37.5℃」
体温計に表示される数字をそのまま朗読する。
「うわぁ〜。完全に熱だね」
ちらちらと周囲を見渡す祐希。
保健室全体に視線を行き渡らせるが、先生の姿は見受けられない。
「しょうがないよね。ルール違反かもしれないけど、白中君はベッドに寝転がって。流石にだるいまま座ってるのもしんどいよね? 」
「うん正直そうだね。朝から体調悪いから限界だったんだよね」
「そうだよね。よく耐えてたね」
労いの言葉を掛け、祐希は保健室専用ベッドのカーテンを開く。カーテンはベッドを囲むように四角形を描く。
「ありがとう。本当に助かるよ」
学校指定スリッパを脱ぎ、晴斗はベッドに上がる。流れるようにベッドに寝転がる。
白く心地よい布団の感触が晴斗の背中や胸に伝わる。幸福感は包まれる。
一方、周囲を確認した後、祐希はシャーッとベッド用のカーテンを閉める。まるで2人だけの空間を作るように。
「わ、…私も失礼します」
仄かに頬を朱色に染め、なぜか祐希もベッドに上がる。
「どうしたの? なぜ俺の隣に寝転がるの? 」
祐希の温もりが直接的に伝わる。
晴斗は童貞であり、陰キャなため戸惑いと興奮が入り混じった複雑な感情を抱える。
「ちょっとね。白中君を看病しようと思って」
「はぁ」
無言の沈黙がその場を支配する。
「よし! 自分から行かないと」
晴斗が聞き取れない小さな声で祐希は意気込む。豊満な胸の前で両手をガッツポーズして。
「えい! 」
突然、祐希は晴斗の身体に抱きつく。
ポヨヨン。豊満で弾力ある胸が晴斗の左腕を包み込む。理性をゴリゴリ遠慮なく削る。
「ちょっと。意味わからないよ。看病するんじゃないの? 」
抵抗するように晴斗は唇を尖らせる。早く離れてもらわないと平静さを保てない。
「看病してるよ。こうやって白中君の身体を温めてるの。熱が出てる時って身体が寒気がするから。どう温かい? 」
(いやいやこれは看病じゃないだろ)
胸中でツッコミを入れる。だが、この状況では口に出すのは憚られる。
流石に祐希を傷つけてしまう可能性がある。
「返事がないってことは寒いのかな? もう少し密着するね」
先ほどよりも頬を赤く染めながらも、次に祐希は足を絡ませる。両足を器用に晴斗の足に絡み付ける。
「ちょ!? 」
拒否反応を示しつつも、本心は興奮を抑えられない。陰キャだからこそ、美少女との密着は気分を高揚させる。
「寒かったら。もっと温めてあげるからね」
「流石にそこまでは…」
「遠慮しない遠慮しない。もっと温めてあげるね」
ギュッと圧迫するように胸や手足を、祐希は押し付ける。
「はぅ! 」
情けない声を晴斗は漏らす。胸の感触や手足の柔らかさに敏感に反応する。
「どうしたの? その反応? もしかしてエロいことでも考えちゃった? 白中君はウブだなぁ〜」
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