第26話 生徒会からの呼び出し→退学

「君達がなぜ生徒会室に呼び出しを喰らったの見当がつくかな? 」


 威圧感のある顔で浩平は佇む岸本と今水に問う。初めて訪れたのか。岸本と今水は落ち着きがない。


「それは恐らく、いじめられっ子の白中と俺達に関する話ではないでしょうか? 」


 恐る恐る疑問形で岸本は返す。今水は口を強く噤む。


「そうだね正解だよ。ただ言葉の選択には気を付けないとね。白中君をいじめっ子として扱うのは差別的発言だよ? 」


 不気味な笑みで浩平は返答する。決して目は笑っていない。


「会長の言う通りです。いじめを遂行した外道な人間は彼を見下し差別する権利もありません! 態度をわきまえなさい! 」


 同伴する千里は岸本と今水をまとめて説教する。口調から怒りを露わにしたことが推察できる。


 彼女自身思うところがあるのだろう。


「まぁまぁ橘は落ち着いて。気持ちはわかるがな」


 柔らかい口調で浩平は千里を宥める。千里の心境を推量したのだろう。


「本題に入ろう。風紀委員から報告があってね。先日、君達2人がいじめ被害者の白中君に接触したとね。証拠として写真もある」


 1枚の写真を反映するスマートフォンを浩平は掲げる。スマートフォンの画面には、見事に岸本が晴斗の胸ぐらを掴む場面がベストアングルで写真に収まる。


「風紀委員からの情報提供だ。何か言い訳はあるかい? 」


 追い込むようにグイグイ浩平は岸本と今水に問いを投げ掛ける。答えが1つしか存在しない問いを。


「いいえ、…ありません。その写真は本物です。何者かによって盗撮されたものですが…」


 俯きながら、せめてもの報いとして、岸本はという言葉を出す。


 被害者アピールでもしたいのだろうか。


「俺も写真の存在は認めます。ただ盗撮はされてました。これはこれで問題ですよね? 」


 我が身を守るために、今水は岸本に便乗する。


「確かに盗撮は問題かもしれない。だが俺達、生徒会にとってはどうでもいい。学校の治安が悪くなるわけではないからな。それと、勇気を持って盗撮した人間に感謝したいぐらいだ。学校の害悪を罰する良き好材料になるのだから」


 冷静な調子で論理的に浩平は話を展開する。矛盾点は皆無だ。言葉選びだけでも浩平が有能で賢い人間だと理解できる。


「「そんな…」」


 岸本と今水は同じように項垂れる。実に目にして滑稽だ。


「それでは今回の処分についてだが、頼む」


 ちらっと浩平は千里に視線を移す。2者間の視線が合致する。


 静かに千里は頭を縦に振る。


「それでは処分の内容をお伝えします。風紀委員からの報告を受け、生徒会と数人の教員と話し合いを実施した結果、岸本直行、今水昇。あなた達には退学の処分を言い渡します」


「は!? 」「な!? 」


 想定外の事態に目が点になる岸本と今水。次第に千里の言葉を理解し、顔が真っ青になる。


「当然でしょ? ただでさえ、いじめの加害者だったんですよ。その上、いま1度いじめ被害者に接触し、胸ぐらを掴み罵声も浴びせた。当然の処分です」


 冷静に千里は残酷な現実を告げる。


「そ、それでも処分が重たすぎる! イジメしたぐらいで退学かよ! 」


「いじめごとき? ふざけているんですか! いじめは社会問題ですよ? それに知ってましたか? あなた達2人は、強制的に本学校から追放された今泉俊哉の協力者だったから退学を言い渡されなかっただけ。ただそれだけ。実際はあなた達も退学にしようと言った話も出ていたんですよ」


 笑顔で告げるが、千里の目は完全に笑っていない。岸本達の不幸を好んで喜んでいるようだ。


「ちょっと待ってくれ! 謝ればいいんだろ! 謝れば! だから許してください! 今水も一緒に謝るぞ! 」


「あ、ああ」


 膝を強く打ち付け、岸本と今水は仲良く浩平に向けて土下座する。


「「どうか。どうか。退学だけは勘弁してください! いじめをして学校の治安を悪くして申し訳ございませんでした! 」」


 気持ちを籠めた声で、岸本達は叫び、高らかな肉声が生徒会室に響く。


「…」


 気怠そうに航平は机に両肘をつき、左右の指をすべてクロスさせる。


「残念ながら叶わぬ希望だ。君達の退学は既に決定してしまった。これから大変だろうが力を尽くして頑張ってくれ…」


 他人行儀で浩平は最低限の言葉を送る。


「そこをなんとか! 」


 必死に岸本は机を叩き、浩平を説得しようと試みる。


 晴斗の前での態度とは大違いだ。


「すまない。もうどうにもならない」


 いやらしく丁寧に岸本の目を覗き込みながら、浩平は伝える。


「そ、そんな」


 力尽きるように岸本は膝から崩れ落ちる。


「クソ! クソ! 俺はこれからどうすればいいんだ〜」


 気持ちを全面的に披露し、今水は床を全力で殴る。


 満身創痍の状態で岸本は、ただ項垂れる。


「ざまぁないね。人間の道を外れた行いをした罰だよ」


 千里のとどめの一撃が静寂な空間の空気を裂く。


 岸本も今水も心にひどい傷を負ったのにも関わらず。千里は畳み掛ける。


 流石に気の毒そうに、浩平は顔をしかめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る