第63話 初めての来客

 生徒会室にて晴斗は業務に従事する。


 晴斗は無事に生徒会長になれた。浩平が以前に座っていた生徒会長の席に晴斗が座る。


 他の席には生徒会副会長の架純。昨年から引き続き、生徒会書記の千里。会計の祐希。最後に庶務の玲香が各々の席に座る。


「今日も頑張ろうね」


 そう言って千里は微笑む。


 晴斗は少し照れ臭そうにしながら、「あぁ……そうだね」と答えた。


「すいません。いじめの件で相談がありまして。宜しいですか? 」


 数回のノックの後、1人の男子生徒が生徒会室に入ってきた。


「どうぞ」と、祐希が促す。


「ありがとうございます」


 お礼を言い、祐希に用意されたイスに男子生徒は腰を下ろす。


「それで、どんな内容でしょうか? いじめといった言葉を発していましたが」


 席が立ち上がらず、晴斗は問う。


「まず、俺の名前は服部信二と言います。サッカー部です。はい。俺は2年生なんですが、同級生のサッカー部員がいじめを受けてるんです」


 悲しい表情で信二は説明を終える。


 その表情を見た千里は心配そうな顔を浮かべながら晴斗を見つめていた。


 晴斗は黙って信二の話に耳を傾ける。


「先輩の吉田というサッカー部員を中心に複数人の部員から俺の同級生はいじめを受けてるんです」


「なるほど。それで、差し支えなければ、いじめを受けてる人物の名前を教えてくれませんか? 」


 ようやく晴斗は自身の席から立ち上がる。信二の近くに足を運ぶ。より詳しく話を聞くために。


「野山星矢と言います」


「えっ…………」


 その名前を聞き、一瞬だけ晴斗の動きが止まる。


「おいおいまじか」


 架純も同じような反応を示す。


「まさかあの野山君が今度はいじめを受けてるなんてな。不幸だね」


 祐希は意味深に目を細める。哀れに感じているのだろうか。


「しょうがないんじゃない。因果応報でしょう。確か、野山は白中晴斗君のいじめを傍観していた上、笑って楽しんでたんでしょ」


 どこか冷めた様子で玲香は口を開く。


 その発言に対して晴斗は何も答えなかった。


「ちょっと玲香。空気読んでよ! 」


 即座に千里が玲香をたしなめる。


「別にいいじゃん事実だし」


 悪びれもなく、玲香は言葉を返す。


 玲香の言葉に信二は俯く。


「そうですよね。俺も知ってます。野山が白中生徒会長のいじめを視認し、楽しんでいたことは」


 信二は肯定するかのように答える。


「まぁ、今更何を言ったところで仕方ないけどさ。でも、野山達のせいで白中晴斗君は苦しんだんだよ」


 晴斗のことを思っての発言なのか、それとただ単に思ったことを口にしているのか、玲香の口調からは真意を読み取ることは出来ない。


「どうする晴斗? 生徒会が動く動かないかの意志は晴斗にある。すべては晴斗の判断によって始まるんだ」


 架純は真剣な眼差しで晴斗に問いかける。


「俺は――」


 生徒会役員達は晴斗の回答を待つように沈黙を保つ。架純、祐希、千里、玲香が見守る中、晴斗は静かに頷く。


「助けたい。俺はこの学校からいじめを無くすために生徒会長になった。どんな人でも俺はいじめから救出する」


 強い意志を持って晴斗は信二に向かって話す。


 その姿を見た信二は嬉しかったのか、先ほどと打って変わり表情が明るくなる。


「よし! じゃあ、あたし達もいじめを撲滅する晴斗の目標に協力しますか! なぁ、みんな。準備はできてるか? 」


 架純の呼びかけに4人は力強く返事をする。


「もちろんだよ! 晴君の決定でしょ! 」


 祐希は力強く拳を握る。


「生徒会長様の決定には従わないとね」


 千里はやれやれと肩を竦める。


「腕が鳴るね。いじめに関しては新生徒会の初仕事だよ」


 玲香は楽しげな笑みを浮かべる。


「それでは皆。早急にいじめから野山君を救出する。解決の理想は今日中かな」

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