第64話 解決

「おら!おら! 」


 今日も日課で部室で吉田達から野山は暴力を奮われる。


「ははは。本当に飽きないですね。何度殴っても暴力は最高ですね! 」


 サッカー部の1人が愉快な口調で笑い声をあげる。


「やめろよ。暴力は良くないぞ。新しい生徒会長が口にしてただろ 」


 ニヤニヤしながら部員の1人がたしなめる。


「そんなこと言って。吉田先輩も楽しいくせに」


「まあな。俺は正義の味方だからな。悪い奴を成敗してるだけだ」


「へぇ、正義ねぇ。じゃあ俺達も正義ってことか? 」


「ああそうだ。だから、悪の野山を罰しないとな」


 ガッ。バキッ。


 吉田は無抵抗な野山に蹴りを加える。


 野山は虚ろな目で吉田を中心に何日も暴力を受け続ける。既に顔は死んでいる。もう人生を諦めた顔を形成する。


「そこまでだ! お前ら!! 」


 突如、部室のドアが開け放たれる。そこには生徒会役員を引き連れた生徒会長の晴斗がいた。


「なんだてめえら!ここはサッカー部の部室だ。関係ない奴らはすっこんでろ! 」


 吉田は突然現れた生徒会役員達に罵声を浴びせる。口調から動揺が走る。


「おいおい。君達が暴力を振るっていると報告があったんだよ。大人しくしろ」


 晴斗は淡々と事実を告げる。普段とは異なり、冷淡な口調だ。


「うるさい!これは教育だ!悪いことをしたら指導するのが当然だろうが! 」


 晴斗の言葉を無視し、吉田は怒鳴り散らす。


「そうだ! そうだ! 」


 他の部員達も吉田の言い分に同意する。


 ようやく部員達から動揺が抜ける。


 自分達の行為を正当化したことで落ち着きを取り戻したのだ。


 一方、生徒会役員達はその様子を見て呆れ果てていた。


 この場にいる者達は、自分達が何をしているのか理解していないようだ。


 野山は腫れた顔のまま床に転がされている。身体中はアザだらけだ。恐らく骨にヒビが入っているかもしれない。


 晴斗はその惨状を見て怒りが湧き上がる。だが、冷静さを保とうとする。


(落ち着け……声を荒げるのは、こいつらと同レベルだ)


 そう思いながら野山の状態をチェックする。


「そうですか。では僕達も指導させていただきますね」


「あんだと!?」


 晴斗の発言を聞き、吉田は睨みつける。


 その視線に対し晴斗は毅然とした態度で返す。


 生徒会役員達も臨戦態勢に入る。


「架純、頼む」


 右腕を挙げて晴斗は架純に合図する」


「了解! 」


 スマートフォンを取り出し、架純は電話をかけ始める。


「もしもし警察の方ですが。新緑高校で生徒会副会長をしてます雫架純と申します。あたしの目の前で複数の生徒達からいじめを受け、気絶寸前の生徒が倒れてます。早急に新緑高校サッカー部の部室まで来てください」



 電話を切り、架純はスマホをしまって腕組みをする。


「さぁ、これで警察は来るだろう。あなた達の悪事も終わりだ」


 架純は不敵に微笑む。


「お、おい。お前らイカれてるのか? 俺達が何をしたって言うんだ! 」


「まだわからないんですか? あなた達の行動は明らかに犯罪ですよ」


 千里が口を挟む。


「犯罪だと? 暴行罪のこと言ってんのか? これは指導だ! 俺達は悪くない!」


 吉田は開き直ったように叫ぶ。


「確かに暴力行為も傷害罪に該当するでしょう」


「なっ! 」


「それに、ここにいる生徒全員の証言がある。これだけ揃えば充分証拠になる」


 晴斗は淡々と告げる。


「ふざけんな! お前らは狂ってる! 」


「以前の演説でも言ったでしょ。俺の目標はこの学校のいじめを0にすることだって」


 晴斗は力強く宣言する。


 プゥゥゥ〜〜ン。


 パトカーのサイレンがようやくサッカー部に行き届く。


 部員達の動揺は半端ではなかった。

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