第65話 彼女の訪問
「どういうこと! どうして吉田先輩は警察に連行されたのよ! 」
吉田達サッカー部員が警察に連行された次の日の放課後。
吉田の彼女の桃花が生徒会長に乗り込む。彼女の剣幕から必死さが伝わる。
「なんだなんだ騒がしいな」
架純は嫌悪感を示す。いつも通り生徒会室で書類整理をしていた。副会長の仕事だ。
そんな時、ドアをノックもせずに乱暴に開ける音がする。そこには顔を真っ赤にして怒っている桃花がいた。快く受け入れることは不可能だろう。
「なんで! 警察を呼んだの! しかも生徒会が! なんで生徒会がいじめを解決しないのよ! 」
怒りが爆発している。相当頭にきているようだ。怒鳴り声が生徒会室に響く。
「そ、それは吉田先輩はいじめという犯罪を犯していたからね。しかも過激な暴力も奮っていた。だから警察に通報した。ただそれだけだよ」
わずかに桃花の威圧に圧倒されながらも負けずに、晴斗は理由を説明する。
その言葉を聞いた瞬間、桃花は鬼の形相に変わる。まるで般若の面を被っているかのようだった。
「あんたら最低なクズどもね! 警察を呼ぶなんて! なんで生徒会が敢えて警察に通報するの? そもそもなぜいじめを防止しないの! バカなの!!」
生徒会役員に向かって桃花は罵声を浴びせる。
しかし誰も何も言わず黙ったままだ。反論する者はいない。
それを見た桃花は余計に腹を立てる。
「何よ! 何か言いなさいよ! まさか図星なわけ? あーあ、これじゃ生徒会失格じゃない!」
生徒会役員に失望した桃花は踵を返して去ろうとする。
だがその行く手を遮るように架純が立ち塞がる。
「やれやれ彼氏も彼氏なら。彼女も彼女だな」
呆れながら大袈裟にため息を漏らす。そして冷たい目線を桃花に向ける。
「な、舐めた態度取らないでくれる! 」
桃花は立ち止まり睨みつける。その眼差しには殺気が込められている。
そんなことはお構いなしに架純は続ける。
「別に舐めてないけどさ。ただお前の彼氏、吉田は悪いことをした。それだけは理解しろ。」
桃花は一瞬驚いた表情を見せる。しかしすぐにまた元の顔に戻る。
「そうやって罪を擦り付けるつもり? 本当に卑怯な奴らね! 」
再び桃花は怒りをぶつけてくる。もう完全に冷静さを欠いている。
「違う。これは事実だ。生徒会長の晴斗が悪いことだと判断したんだ。その結果として警察を呼んだ。あたし達の生徒会長の判断を否定することは許さんぞ! 」
「そうそう。それはつまり生徒会への宣戦布告になるからね」
架純に続き、祐希も桃花に対して牽制する。
「そうだね。それにうちの生徒会は前会長の力も借りることができる。前会長の生徒からの信用はあなたも知ってるよね? 」
千里も続けて話す。
「そうなれば、玲香達生徒会以外にも他にも多くの生徒達を敵にするけど。大丈夫? 」
玲香も話に加わる。
「くっ」
桃花は後ずさる。先ほどまでの勢いは衰える。桃花は今の状況を理解したのか少しだけ落ち着きを取り戻す。
しかしそれでもまだ怒りは収まらないようだ。悔しくて歯ぎしりする音が聞こえるほど強く噛み締めている。
「ど、どうしてこうなるのよ…。なんで…」
捨て台詞を残して桃花は生徒会室を出て行った。目に大粒の涙を溜めながら。いくつもの涙が床に落下する。
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