第51話 初対面

「いいの? 白中晴斗君の自宅にお邪魔しても。迷惑じゃない? 」


「気にしなくてもいいよ。お母さんもいるけど喜んで歓迎すると思うよ。それに今日は土曜日だから時間に余裕もあるしね! 」


「そうなんだ……じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔させてもらおうかな」


「うん! そうしよう!」

 

 晴斗は玲香と一緒に自宅へ行くことが決定した。


 その帰り道、2人の仲が更に深まったのは言うまでもない――。


「ただいま~」


「おかえり~。晴斗~~」


 晴斗が自宅のドアを開けた直後、洋子に飛び付かれる。そして、そのまま身体を持ち上げられ頬擦りされる。


 これがいつもの光景である。


「ちょっとお母さん……やめてってば」


「うふふっ♪ 相変わらず可愛いわねぇ~。本当に私の子ね~ 」


 洋子から笑みが溢れる。留まる気配は見受けられない。どんどんだらしない表情に変貌する。


 「……晴斗君。何でこんなことになっちゃったの?」


 玲香は呆れた様子で晴斗に訊く。


「いやぁ……これは僕にも分からないんだよ……。小さい頃からずっとこうなんだ……」


「そっか……それは大変そうだね……」


「お!? カワイ子ちゃん発見! もしかして晴斗の彼女さん? 」


 晴斗と玲香の会話中に洋子が割り込んでくる。


「えっと……違います。いずれはって感じですけど」


 玲香は照れながら答える。頬は一気に赤く染まる。


「あらまー! それは良かったわね~。この子は全然モテないし心配だったんだけど。お名前は何て言うの? 」


「山本玲香と言います」


「玲香ちゃん。あらあらかわいい名前ね! どう? うちの晴斗は可愛いでしょう~」


「ちょっ……母さん!! 余計なこと言わなくて良いから! ほら、早く降りてよ!!」


「はいはい。わかったわよ」


 洋子は晴斗を解放した。晴斗は玄関の床に着地すると安堵のため息をつく。


「さあさあ上がって玲香ちゃん」


 洋子に背中を押され、玲香は晴斗の自宅に足を踏み入れる・


「いいんですか? 」


「いいのいいの。カワイ子ちゃんで晴斗の知り合いなら喜んでウェルカムだから! 」


「ありがとうございます! ではお邪魔します」


「じゃあ私はお茶でも入れてくるからリビングで待っててちょうだい」


「わかりました」


 2人はリビングに向かった。


「ちょっと置いていかないでよ」


 晴斗玄関の床から立ち上がって、靴を脱ぎ、リビングへ移動した。


「ちょっと。玲香ちゃん汗だくだくじゃない。シャワーでも浴びてきなさいよ」


「あっ! 本当ですね。白中晴斗君とランニングをしていたもので」


「そうなんだ。私の息子もやるわねぇ。それじゃあお風呂沸かしとくから入ってきても良いわよ。その間に晴斗の部屋案内しとくから」


「いえ、大丈夫ですよ。シャワーだけで十分です」


「そう。じゃあ晴斗! 玲香ちゃんを風呂場に案内してあげて」


「あいよ。山本さんこっちだよ」


 玲香を風呂場に誘導する。


「ありがとう」


「バスタオルはこれ? 」


 タンスから適当にバスタオルを取り出し、晴斗は玲香に手渡す。


「助かる。どう? 一緒にシャワー浴びる? 」


 いたずらっ気に玲香は笑みを作る。まるで晴斗を試すように。


「バカ言わないでよ。俺が変態になるよ」


「玲香は一緒にシャワー浴びても平気だけどな~」


 口元に人差し指を当て、玲香は唇を尖らせる。


(困ったな~。どう返せばいいんだろ)


 晴斗は頭を悩ませる。適切な言葉が頭から生まれない。晴斗の語彙力にも問題があるのも事実だが。


「冗談冗談。ごめんね困らせて」


 玲香は無理やり作り笑いのようなものを溢す。苦笑に類似していた。


「だから一緒にシャワーを浴びる提案はなしで。はい! 退散して退散して! 」


 追い払うように玲香は手を払う。


「急だな。付いていけないよ」


 不平を言いながらも、晴斗は風呂場とリビングに接する扉を閉める。扉を閉める最中、隙間から玲香の着替える姿が見えた。彼女は丁度、上半身のTシャツ脱ぐ最中だった。

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