第34話 告白

「いきなりごめんね。急にこんな場所に誘導して」


 柔剣道場の真ん前の人気のない場所。そこに休み時間終了の5分前にも関わらず、2人の生徒の姿がある。


 1人は晴斗の同じクラスで、クラスカーストがトップレベルであった野山という生徒だ。野山は晴斗が今泉に暴力を奮われる姿を視認して、笑いを溢していた男子だ。


 もう1人は風紀委員の架純だ。


 偶然にも廊下ですれ違い、野山が架純を人気のない場所に誘導した。話があると伝えて。


 そして今に至る。2人は自動販売機の前に立つ。通常時と変わらず、自動販売機はブルーライトを元気に放出する。


(あれはクラスでも人気者の野山? それに架純の姿も。何かあるのか? )


 たまたまジュースを買いに足を運んだ晴斗。


 野山と架純の姿を発見し、部外者だと認識し、近くの木に隠れている。2人から晴斗の姿は見えない。


「それは構わないが。早く用件を伝えてくれないか? でないとそろそろ授業が開始してしまいそうだからな」


 イケメンを前にしても架純の態度は変わらない。凛として堂々としている。決して緊張などしない。


「ごめんごめん。じゃあ、単刀直入に伝えるね」


 爽やかイケメンの野山は柔和な笑みを作る。礼儀として姿勢も正す。


「雫さん。風紀委員として頑張る君が好きだ。初めて見たときに一目ぼれしたんだ。もしよかった俺と付き合ってくれないかな? 」


 野山は余裕たっぷりの表情から告白する。自分自身に多大なる自信があるようだ。フラれる未来など想像していないだろう。おそらく人生でもフッた経験はあるが、フラれた経験は皆無なのだろう。


「すぐに返事は必要ないよ。ゆっくり考えていいから」


 余裕綽々しゃくしゃくで野山は告白を了承するかの猶予を与える。イケメンだからできる芸当だろう。陰キャでは告白した後にそこまでの心の余裕は生まれない。また、告白する機会がまず存在しないだろう。陰キャにそんな勇気は無い。


(野山が告白しただと~。しかも架純に。確かに架純は美人で可愛いけど)


「そういうことだから。今、返事ができるならありがたいな。もし不可能ならば、全然待つよ。俺は絶対に告白の返事を催促しない。格好良くてスマートで優しいからね」


 野山は架純に向けてウィンクする。


「そうか。だが返事はすぐにできる。心の準備はできているか? 」


「うん。もちろん。ではどうぞ? 」


 野山は架純の次の言葉を促す。既に架純の答えが見えているかのように。


「悪いが、告白を了承するつもりはない。だから告白は断る」


「は? 」


 躊躇なくバッサリ架純は告白を断る。


 野山は驚きを隠せず、唖然とする。


 信じられないと顔が語る。


(おぉ〜。架純がフった。なんかスカッとしたわ。俺、野山のこと苦手だったから)


 木に隠れながらも、晴斗は嬉しい気持ちになる。他人の不幸は蜜の味らしい。


「ありえない! どうして俺の告白を断る! 理由を教えてくれ! 」


 野山はしぶとく諦めない。唾をそこら中に飛ばしながら、荒い口調でフラれた理由を追及する。


「醜いな。だが、仕方がないから教えてやろう。野山星矢。君は既に退学した今泉達のいじめを見ながら、笑っていたらしいな。晴斗のいじめられる姿を見てな」


「く! どうして知ってる」


「情報提供者がいてね。目立つ存在だったから覚えていたそうだ」


「くっ。仕方ないだろ! 面白かったんだから! 弱者がやられる姿がな! 」


 もはや野山は開き直る。多少、笑みを溢しているほど。


「クズが。悪いがそんな性格の奴と付き合うのはごめんだ。たとえ、100万円を渡されても断る。じゃあな。そろそろ授業だから、あたしはこの場を立ち去る。それと授業に遅れるなよ。クソ野郎」


 キーンコーンカーンコーン。


 冷酷な口調で架純が野山を貶した直後、学校のチャイムが鳴り響いた。


 野山は動かず、ただ離れていく架純の背中を眺めていた。

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