第45話 浮気

「あれ? あれは桃花? 」


 サッカー部の活動を終え、野山は帰路の途中だった。そんな最中、新緑高校の制服を身に纏った男女2人が仲良く腕を組んでいた。


 野山は女子の背中に見覚えがあった。野山が大好きな彼女の池上桃花だった。桃花はバレー部に所属する女子生徒だ。


 野山とは中学からの付き合いで、その頃から彼女はバレーボール一筋である。高校でも部活に精を出していると聞いていた。

 

「お、おい桃花! どうして俺以外の男子と腕を組んでいるんだ! 」


 急いで野山は桃花の元に駆け寄り、問い詰める。だが、当の本人である桃花はというと……


「え? あぁ、この人ね。私の本命の彼氏。あなたも知ってるでしょ? 同じサッカー部のエースで先輩の吉田さん 」


 まるで他人を紹介するかのような口ぶりであった。


「は? どういうことだ? 彼氏は俺だろ? ふざけているのか? 」


 野山は動揺を隠せない。


「まさかそんなわけないじゃない。いじめを見て楽しむ人間が私の彼氏? 笑わせないでよ」


 桃花は鼻で笑いながら答える。


「なっ!? お前何を言って……」


「言葉通りの意味よ。それともう二度と私の前に現れないでくれるかしら? あなたみたいなクズ人間とは関わりたくないし」


そう言い残すと、桃花は本命だという彼氏の腕を取り、その場を後にした。呆然と立ち尽くす野山。


「そういうことだ。桃花は既に俺の女だ。残念だったな補欠でイケメンの野・山・君」


 吉田は見せつけるように、桃花の唇を奪う。


「うぅぅん」


 甘く艶めかしく声を桃花は漏らす。唇を刺激され、感じているようだ。


 桃花が感じている間、吉田はちらちらと野山に視線を移す。桃花が自分の女であることを証明するように。


 徐々にキスはエスカレートし、吉田と桃花は舌を絡ませる。唾液も自然と交わり、ねちゃねちゃエロい音を立てる。


「くそぉおお! 桃花ぁああ! 」


 その光景を目の当たりにした野山は怒り狂う、だが、泣き叫ぶことしかできない。吉田は先輩なため暴力は震えない。ひたすら熱い熱い涙が野山の頬を流れる。


「うぅぅ~ん」


 吉田と桃花は舌と舌の端を合わせる。べろーんっと唾液が糸を引く。そして2人は離れた。


「ふぅ、満足したぜ。さてと、じゃあそろそろ帰るとするかな」


「うん♪ 今日もありがとね吉田さん」


 2人のカップルはそのまま去って行った。残された野山はただ泣くだけしかなかった。


「待ってくれ~待ってくれ~桃花~。もう俺にはお前しかいないんだ~~」


 嗚咽を交えながらも、声量のある声で野山は叫び続けた。桃花の腕を掴むように右手を真っ直ぐ前方に伸ばした状態で。


 ただ桃花からは反応を得られない。


 吉田と桃花は身体を密着させながら、ぐんぐん野山から距離を作った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る