第44話 退学者達

「俺達どうして底辺に落っこちたんだろうな」


 公園のベンチに座り、顔色の悪い今泉が両隣に座る岸本と今水に問い掛ける。


「それはおそらく、いじめをしたからだろうな」


 岸本が力なく返答する。地面に視線を向けながら。


「今泉は白中を学生カバンで殴ったからだろう」


 今水も同じく地面を見ながら答える。


「あの時は何も考えずただあいつを痛めつけてやろうと思ったんだ……でもまさかあんなことになるなんて思っていなかった。俺はただ白中をぶん殴りたかっただけなんだ……」


 今泉が悲痛な声を出す。その気持ちはよく分かるよと岸本と今水はただ頷く。


「どうして俺がこんな目に遭わないといけないんだよ! 高校なんて人生おわりじゃねぇか!! 」


 苛立ちを露にし、今泉は公園の砂を強引に蹴り上げる。砂煙が周辺に舞う。


「ああそうだな」


 岸本と今水が同意したその時だった。


「それにどうしてお前達は俺を止めなかった? そうすればこんな悲劇は起きなかったはずだ」


 突然声音が変わり、今泉は声を荒げる。まるで別人のように変わった。


「……」


「……」


 岸本と今水は無言のまま何も答えない。


「何とか言ったらどうだ? 」


「……」


「……」


「黙ってちゃ分からないじゃないか! 」


 今泉は顔を歪ませて怒りだす。


「俺達のせいかよ。自分勝手だな」


 不機嫌に岸本が今泉を睨む。


「ああ? 何だと? 」


 今泉を対抗するように睨み返す。


「俺達が止めれば良かったのか? そうしたらお前はその暴力行為を反省して悔い改めていたのか? 違うだろう。お前は自分の行いが悪いことだとは思っていない。むしろ正しいと思っているんじゃないのか? だから俺達に責任転嫁しているんだろ。ふざけんなよ」


 岸本の言い分は筋が通っていた。実に正論だった。


「うるせぇ!!! 」


 今泉は勢いよく立ち上がり岸本の胸ぐらを掴む。


「お、おい! よせよ! 離せよ! 」


「離すかよ!」


 今水の声にも耳を傾けることなく今泉は岸本の胸ぐらを強く握る。


「やめろ! 」


 今水も立ち上がり、岸本を助けようと駆け寄る。


「黙ってろよ! 雑魚が!! 」


 岸本を解放し、今泉は全力で今水の顔を殴る。


 鈍い音と共に今水は吹き飛び、ベンチに激突し倒れた。口元からは血が流れ出ている。


「あーすっきりしたぜ」


 今泉が満足そうな表情を浮かべてる。


「てめえ! ふざけんなよ~!! 」


 今水の仇を取るために、岸本が歯を食い縛りながら今泉に向かって行く。


「お前も殴られたいようだな」


 今泉は再び岸本を掴もうとする。しかし今度は避けられてしまう。


「くそっ! 当たらねえぞ!! 」


 焦り始めた今泉の顔面に岸本の拳が炸裂する。


「ぐあっ」


 今泉はそのまま後ろに倒れ込む。


「ざまあみろ」


 今泉を見下し、岸本は嘲笑う。


「ちくしょう……」


 悔しさを滲ませた声を漏らしながら今泉は立ち上がる。


「さっきはよくもやりがったな~! 」


 虚を突き、後方から今水が今泉を蹴り飛ばす。


「ぶふぅ!? 」


 今水によって今泉は転倒してしまう。


「これで終わりだ! 」


 岸本が馬乗りになり、何度も今泉の顔を殴りつける。


「この野郎!! ぶっ殺してやる!! 」


 器用にパンチを防ぎ、今泉は岸本の顔を掴み、勢いよく頭突きする。


「ぎゃああああああ」


 岸本の鼻から鼻血が噴き出す。


「岸本大丈夫か! 」


 急いで今水は鼻を抑えて苦しむ岸本に駆け寄る。


 「お前等みたいなクズ共が俺より上に立つなんて許さないからな……俺よりも下に落としてやる……」


 痛みで悶える岸本と今水を眺めながら、憎しみを込めて呟く。


「お前達なんか死ねばいいんだ」


 そう吐き捨て、今泉は戦闘姿勢を構える。


「岸本立てるか? 」


「ああ……何とか」


 岸本は掌に大量の鼻血を垂らし、今泉を警戒する。


「死ね!! 」


 再び襲い掛かってくる今泉に対して岸本と今水は構えるが、先程のダメージが残っているため動きが遅い。


「ぐはぁ!! 」


 今泉の攻撃を避けきれず、岸本と今水は腹部を攻撃されてしまう。


「お前達は俺を怒らせたからな。徹底的に痛めつけてやる」


 今泉は両手をポキポキと鳴らす。


「こいつマジでヤバイぞ」


「ああ……」


 それから無謀な暴力的な喧嘩が繰り広げられた。全員が倒れて動けなくなるまで暴力は続いた。

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