第5話 学級委員
「ねぇねぇ。白中君」
本日、初めてクラスメイトが晴斗へ声を掛ける。その人物は
「う、うん。どうしたの?」
今後、クラスメイトが話し掛けて来ること皆無だと想定していた。クラスメイト達が晴斗に怖気づいているためだ。そのため想定外の事態に対して多少なりとも、晴斗は内心で戸惑う。
その証拠に返答の歯切れは悪く、ぎこちない。舌が上手く回らなかった。
「ちょっと伝えたいことがあるけどいいかな?」
緊張した面持ちで、祐希は尋ねる。表情は通常時よりも硬い。
(学級委員の野末さんが俺に何の用だろ?)
率直な疑問を抱く晴斗。
「な、なぁ。野末さんがあの白中に声を掛けたぞ」
「どうしたんだろう?」
「バカ! クラスの雰囲気を良くするために働き掛けたに決まってるだろ」
教室に身を置くクラスメイト達も晴斗と同様の感情や疑問を抱く。先ほどよりも教室は騒がしい。ヒソヒソ話を教室の人間が開始する。
「ここでは場所も場所だし。空き教室で話ができないかな?」
ロングの白髪を揺らしつつ、紫の瞳を教室の後方の戸へ走らせる。
晴斗は周囲を見渡す。多くのクラスメイトが晴斗と祐希へ目線を送る。
祐希の言葉に隠された裏の意味を容易に理解する。どうやら場所を変えたいらしい。
「わかった。でも空き教室までは案内してもらってもいいかな?」
晴斗は自席から立ち上がる。佇む祐希と目が合う。
豊満な胸な上、身長も160センチ前半とスタイル抜群だ。
自然と豊満で柔らかそうな胸に目がいく。ブレザー越しでも明確に伝わる。
「もちろんだよ。協力ありがとう!」
祐希は歩き始める。自然と晴斗の席から離れる。
晴斗は祐希の後をゆっくり追う。大部分のクラスメイトから多大な注目を受けながら。
そのため、当然の如く心は落ち着かない。緊張や動揺からか。心臓の鼓動は普段よりも幾分か加速する。身体もわずかに上気する。
廊下に出て、祐希の後を付いていくと、彼女は近所の教室を開ける。
「ここだよ」
戸を開けた状態で晴斗へ例の場所を教える。
「へぇ〜。こんな場所があるなんて知らなかったよ」
空き教室という言葉から一般的な生徒では知り得ない教室だと示唆されていた。案の定、晴斗が祐希によって案内された空き教室も存じ上げなかった。
「うん。ここが空き教室だという事実は一部の人間しか知らないと思うよ。おそらく、学級委員は全員知ってると思うよ」
愛嬌のある態度で祐希は接する。
誰に対しても優しく同じ態度で接する。そのため祐希は男女から人気が高い。
「お先に失礼」
晴斗は先に入室する。教室の内装は晴斗のクラスと同じ造りだ。机も30席ほど存在する。当たり前だが、教室には晴斗と祐希しか実存しない。
黒板はここ最近は利用されていないのだろう。チョークの書き跡も無く、ピカピカでテカリも見られる。
遅れて祐希も入室する。丁寧に戸も閉める。
不思議とぷしっと正しく姿勢も整形する。
「白中君。ごめんなさい!」
真剣な表情で突如、祐希は頭を下げる。会釈では無く、完全に綺麗な形で頭を下げる。
「え…」
晴斗の思考が停止する。頭が真っ白になる。学級委員の祐希が理由もなしに謝ってきた。動揺を隠せない。視線が右往左往に彷徨う。
「私はいじめを受ける白中君を助けられなかった。自分を守るためにいじめを見て見ぬフリをしたの。クラスのリーダー的な存在。学級委員なのに。許してもらえるわけないけど。せめて謝罪の気持ちだけでも」
祐希の口調から嘘偽りは見受けられない。誠実さのみが伝わる。心の底から申し訳なさそうだ。
(そういうことか。野末さんは責任感が強いんだな)
祐希の言動から合点がいく。いじめを見逃していたことに少なからず罪悪感を抱いているのだろう。
「頭を上げてよ野末さん。野末さんは悪くないよ。人間誰しも自分が可愛からね。俺が野末さんの立場でも同じ行動を取ったと思うから」
「でも…」
納得のいかない顔で、祐希は頭を上げる。眉をわずかにひそめるが、非常に整った美形は健在だ。
「被害者の俺がしょうがないと思うからね。だからもう大丈夫だよ」
相手を安堵させるよう、諭すように晴斗は言葉を選ぶ。
「白中君は優しいんだね。わかった言う通りにするよ」
「うん。そうしてよ」
晴斗は意図的に微笑を浮かべる。
「でも、今後困ったことがあった際は学級委員の私に頼ってほしいな。次こそは絶対に何かしら力になるから」
意気込みを表現し、豊満な胸の前で祐希は両拳を握り締める。
「ありがと。期待してるよ」
晴斗は朗らかな気持ちになる。祐希の優しさに感銘を受ける。
(こういった心掛けは見習わないとな)
「それと、いつでも連絡を取れるようにレインを交換できない?」
「うん構わないよ」
こうして、晴斗と祐希はお互いの連絡先を交換する。
交換できてるか確かめるために、試しにメッセージを送り合う。両者共にメッセージを受信した。無事に連絡先の交換が完了した。
「うふふ。これから宜しくね白中君。いつでも力になります!」
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