第58話 プール

「女子は着替えが長いからね。待機する必要があるな」


 西大寺から遠く離れる岡山の総社のプールサイドで晴斗はそう呟いた。西大寺から総社まで電車で1時間ほど掛かる。今日は休日なため人が多い。多くの人間がプールに身を置く。


「お待たせ~」


 祐希がプールサイドに姿を現した。水色を基調としたビキニ型の水着だ。豊満な胸元にはリボンが付いている。白の髪もポニーテールに結んでいた。


「お! あの子かわいい! 」


「何、私以外の女に目を向けてるのよ! 」


 祐希に目を引かれた男性がカップルの女性にビンタされる。女性はご立腹の様子だった。


「おぉ~晴斗~。待ったか~」


 祐希の後を追うように架純、千里、玲香も姿を現す。3人ともスタイルが良く美人揃いである。千里は普段のポニーテールとは違い、髪をお団子に纏める。


「いや、全然。むしろ早すぎるくらいだよ」


 晴斗は先に更衣室で水着に着替えて待機していたのだ。男性用の短パンの水着だ。彼の中肉中背の身体が露になる。


「架純。メガネは? 」


 架純だけ眼鏡を外した状態で現れた。普段は隠している顔立ちがハッキリと分かる。


「あぁこれ。コンタクトにしたんだ。似合ってないか? 」


 架純は自分の顔を指差す。架純の顔は美少女と呼ぶに相応しいものだった。黒髪ショートヘアーの清楚系な見た目をしている。


 彼女の素顔を見た男子生徒は皆、虜になってしまうだろう。


 メガネを取り、コンタクトにすることでキリっとした見た目から優しそうな印象に変わる。


 おそらく、新緑高校の男子全員が架純のコンタクト姿を目にした経験がないだろう。新緑高校の男子で晴斗だけが架純のコンタクト姿と対面した。


 またいつもとは違う雰囲気に晴斗はドキッとした。


(いやイメージ変わりすぎる。こっちの方が絶対可愛い。いや、普段の眼鏡姿もいいよ。でも俺はこっちの方が好み)


 晴斗は思わず見惚れてしまう。その様子に気付いたのか、架純は少し頬を赤く染めた。


「ジロジロ見るなよ。恥ずかしいだろ」


「あぁ……ごめん」


架純に指摘され晴斗はすぐに目線を逸らす。


「まぁいいけどさ。ほら早く行かないと時間がなくなるぞ」


 架純は照れ隠しをするかのように先陣を切る。他の4人も後に続くようにしてプールの中に入った。


 それから2時間後――。


「ふぅ……疲れた」


 晴斗はプールの中でぐったりとしていた。2時間これでもかと美少女4人と遊びに勤しんだ。


「おい、大丈夫か? 」


 架純が心配そうに声をかけてくる。


「あぁ平気だよ。ちょっと遊びすぎて息が上がっただけだから……」


 晴斗の体力は既に限界を迎えていた。普段ランニングで体力を鍛えている。だが、慣れない水中では話は違った。


「そっか……ならよかった。晴斗も無理するなよ」


 ポン。


 架純は晴斗の肩にスキンシップし、プールから上がる。


「了解」


 晴斗もプールサイドへと上がった。


「ねぇねぇ君達まじで可愛いねぇ~。プールから移動して俺達と遊ばね? 」


 プールから出た祐希、千里、玲香、にナンパを仕掛けるチャラついた男達が現れる。


「えぇー嫌です」


 千里が即答する。彼女は面食いではない。そのため、どんなイケメンに誘われても靡くことはない。


「私もかな~」


 明らかに祐希は嫌な顔を浮かべる。


「うちらはあんたらみたいな男に興味ないんで」


 玲香もきっぱりと断る。彼女達はナンパされることに慣れているため、あしらい方を知っている。


「いやいや、そんなこと言わずにさ~。じゃあ連絡先だけでも交換しない? 」

 

 1人の男がスマホを取り出す。それに続いて残りの3人もスマホを取り出した。


「いやいや。話聞いてた? 」


 玲香が呆れた表情を見せる。


「だから、まずは俺らと遊ぼうぜ。絶対に楽しませて後悔はさせないからさ! 」


 男は引き下がろうとはしなかった。しつこく食い下がる。


 1人の男は玲香の白い腕を掴む。下種な笑みを作りながら。


「やめてください! 」


 それを察知した千里が間に入る。そして、男の手を振り払った。


「うっわ。手厳しいね~。そこも良いね~」


「いやマジで迷惑なんすけど。いい加減諦めてくれませんか?」


 玲香は怒りを滲ませる。


「ごめんね。俺達は狙ったターゲットは逃さない主義なんだよ。特に君達みたいな可愛い子達は諦められないんだよね」


 男はニヤリと笑う。その瞬間、晴斗は身体が熱くなるのを感じた。彼は静かに移動する。架純も晴斗の隣を歩いた。


「すいません。この3人は俺にとって大事な人なんです。だからナンパはやめてくれませんか? 」


 晴斗は声を上げた。普段の彼からは想像できないような強い口調だった。


 彼の言葉に驚いたのか、男達は一瞬固まる。


 すると、他のナンパをしていた男たちも晴斗達に視線を向けた。


「なんだよお前。俺達の邪魔するなよ…」


 男の1人が苛立った様子を見せた。便乗し、残りの男達も苛立ちを隠せない。


「ごめんなさいね。この男の子は私にとって大事な人なんです! 」


 祐希が庇うように晴斗の前に立ち、右腕に抱きつく。柔らかい豊満な弾力が晴斗の生肌を刺激する。


「そうそう。うちの大事な人でもあるから! 」


 千里は左腕を抱き締めた。胸元を押し当てるように強く。


「そういうことだ。だから、この3人には手を出さないでもらおぅ」


 架純は晴斗の右手を優しく握る。


「そうそう。邪魔だからね」


 玲香は晴斗の背中に抱きついた。


 ナンパを仕掛けた男性グループは唖然とする。口を半開きにしながら。


「そういうことだから。私達はここらでお別れさせてもらう」


 架純がその場から去ろうとする。


「そうそう。じゃあね」


 祐希も後に続いた。


「ちょ……待てよ」


「そうだぞ。ふざけんなよ」


 男達が慌てて呼び止める。


「はい。無視無視」


 玲香は適当にあしらう。


 美少女4人は知らないふりで晴斗に触れながら、その場を立ち去る。晴斗も4人に引っ張られるようにして後を追う。


 4人の少女に囲まれながら歩く晴斗の姿は羨ましかったのか、多くの男性が晴斗に嫉妬と殺意を込めた目線を向ける。


(なんかすごい見られてる)


 晴斗は後ろを振り返る。先程まで絡んでいた男達は悔しそうな表情を浮かべた。

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