第61話 相談

「どうしたんだ? 今日は朝から元気がないぞ」


 架純は心配そうに尋ねる。昨日、浩平に生徒会長の立候補の話をされて、ずっとこの調子だ。


 いつもなら悩みなんて無いように見えるのだが、今はそんな風には見えない。


 昨日から生徒会長という単語が晴斗の頭から離れない。


「いや……別に何でもないよ」


「本当か?」


 架純が深く追求しようとして、晴斗は思わず目を逸らしてしまった。


「そうだよ晴君。もし悩みがあるなら何でも私に言ってね」


 祐希も心配そうに言った。


「そうそう。玲香も話なら聞くよ」


 いつの間にか、玲香まで近くに寄ってきていた。


 一方、珍しく千里だけは口を挟まない。ただ千里の視線は晴斗に向かう。様子を窺うように。


「実はさ……」


 晴斗は意を決し、昨日のことを3人に話し出した。


「生徒会長に次の生徒会長に立候補しないかと誘われたんだよ」


「「「え!? 」」」


 千里以外の3人は驚いたような表情を浮かべる。


「それで悩んでるってわけなんだな」


 架純が晴斗の心境を推し量る。


 しかし、千里は少し違ったようだ。千里はどこか嬉しそうに微笑む。まるで自身の望んでいたことが実現したように。


「うん……。俺なんかが生徒会長になれるとは到底思えないんだけど……」


 3人の顔を見ると、晴斗はさらに自信をなくしていく。生徒会長になるなど自身には不可能だ。


「でも、どうしていきなりそんなこと言われたんだろう?」


 祐希が不思議そうに呟く。


「いじめを受けて警察を呼んだ勇気のある俺が適任だと生徒会長は思ってるらしいけど……正直、そんな大層なものじゃないと思うんだけどなぁ」


 晴斗は自分のことを過小評価している。それこそ謙遜を通り越して卑下する程に。


 だが、架純達の反応は予想外のものだった。


「いいんじゃないか? 生徒会長はやってみれば」


 架純が言う。


「そうだよ!せっかく誘ってくれたんだから挑戦してみようよ!」


 祐希も賛同するように声を上げる。


「玲香も賛成かな」

 

 玲香までもが乗り気だった。


 その言葉を聞いて晴斗はますます困惑していく。


「ふふっ。案外、みんな好意的に捉えるでしょ」


 千里だけが満足そうな笑みを浮かべている。


 晴斗はその笑顔を見て確信した。千里は全て知っていたのだ。だからこそ、自分に生徒会長になるように勧めてきたのだろう。


「なんだ。千里は知ってたのか」


「まあね。生徒会書記ですから」


 千里は当然のように答える。


「それでどうするか決まった?」


 千里の問いに、晴斗は考えることもなく答えた。答えは決まっていた。


「4人が背中を押してくれたから、立候補だけはしようかな」


 晴斗は照れくさそうに頭を掻く。


 すると、それを聞いていた千里の顔には笑みが浮かぶ。それはとても満足げな表情だった。


「晴斗頑張れ! 」


「私は晴君だけを応援してるからね! いつでも頼ってね」


 架純と祐希が晴斗にエールを送る。


「ありがとう。2人とも」


 2人からの励ましの言葉を受け、晴斗の心は晴れやかになった。


 そして同時に決意した。生徒会長になろうと。


「晴斗が生徒会長になるのなら、あたし達も生徒会に入らないといけないかもな」


「は? 」


 架純が冗談っぽく言ったことに晴斗は呆気に取られる。


「確かに。晴君の為なら私も手伝うよ」


「玲香も喜んで」


 架純に祐希と玲香も同意する。


「ちょっと待って! 架純達も入るつもりなのか?」


晴斗は慌てて口を挟む。3人まで生徒会に入るなんてことは考えたこともない。


「当たり前じゃん! 友達として当然のことだよ」


 祐希が胸を張って言う。


「いやいや、俺はそこまで望んでないって! それに橘さんだって迷惑だろ」


 千里に話を振ったのだが、千里は首を横に振る。


「全然大丈夫だよ。むしろ歓迎します」


「本当かよ……」


 晴斗は頭を抱えたくなる気持ちを抑えながら呟いた。心強くもあるのだが。


「じゃあ決まりだな。放課後にでも生徒会長に報告しに行こうぜ」


「「お~」」


 架純の提案に祐希と玲香が賛成する。


「ま、まじかよ」


 眼前の光景に晴斗は唖然としていた。


 千里だけは楽しそうにその様子を眺めていた。

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