第9話 風紀委員の攻撃

 ざわざわ。


 早朝。多くの生徒が昇降口に接する廊下に密集する。男女関係なく生徒達は1枚の週報に釘付けだ。


「おいおい。これってやばくないか」


「最低だな!」


「いじめの協力者が平然と学校生活をエンジョイしてるなんて怖いね」


「私達も気をつけないと」


『警察に連行されたいじめ首謀者の今泉には協力者が2人いた!?』


 風紀委員が昇降口近くの廊下辺りに提示する週報のタイトルだ。


 タイトル以外にも内容の説明などが活字で記される。おそらくパソコンで作成された週報だろう。


 しかも、協力者である岸本と今水の学生証の写真もカラーで目立つように記載される。


「どうしたんだ? こんなに人が集まって。岸本知ってるか?」


「…知らないな」


 岸本と今水がその場に姿を現す。


 祐希にフラれた傷が完治しないのか。岸本のテンションは以前よりも低い。ここ何日間は低い状態をキープする。


「お、おい! あの2人はもしかして!?」


 ある男子生徒が岸本と今水を視認する。伝染して他方の生徒も岸本達に視線を走らせる。大量の瞳が岸本達に集中する。


「やっぱり! 間違いないよ」

 

「やばいよね。本当に週報通りだよ」


「普段通りに学校生活を送れる神経がわからない」


「いじめっ子は私達の前から消えてよ!」


 週報の顔写真を確認するなり、生徒達は口々に暴言を吐く。岸本と今水を疎外するように。


「お、おい。なんだよ俺達すごい嫌われてないか?」


「そ、そうみたいだな。なぜだ」


 視線を彷徨わせながら、岸本と今水はだらだらと顔に汗を流す。大勢の生徒からの威圧にプレッシャーを抱き、起因して汗が噴き出す。弱々しい態度が露見する。


「おい! さっさと消えろよ!」


「醜いから。この学校の生徒の恥よ!!」


 岸本と今水に対する悪態は収まる気配が無い。どんどん生徒達は加勢し、悪口の数も凄まじく増加する。


「と、とにかく逃げた方が良さそうだぞ。こんなカオスな状況に身を置いてられるか!」


「お、おう!」


 踵を返し、全速力のダッシュで岸本と今水はその場を退出する。


 階段を駆け上がり、オアシスを求めるように自身のクラスへ移動する。


「なんか騒がしいな」


 一方、丁度岸本と今水が消えたタイミングで、昇降口の靴箱でスリッパへ履き替え、晴斗は生徒達が密集するエリアに視線を向ける。


(どうしてこんなに人がいるんだ。イベントでもあるのかな)


「君はもしかしていじめを受けてた白中君?」


 生徒達が密集する後方に佇む男子生徒が恐る恐る声を掛ける。


「そうだけど。どうかしたの?」


 男子生徒の表情の硬さに、晴斗は違和感を覚える。初対面の相手だが、そこまで緊張するのだろうか。


「君が白中君か!」


 1人の男子生徒の声を合図に、密集する男女の生徒が一気に押し寄せる。全員が見覚えのない顔だ。おそらく他クラスや他学年だろう。


「この学校でいじめが起きて警察が呼ばれた出来事は知ってた。白中という生徒が呼んだとね」


「それにしても辛かったよね? もし話を聞いて欲しいなら私でも聞けるからね」


「風紀委員の週報で君の写真が載っていた。だから簡単に君が白中君だと認知できたんだ。それにしても、警察を呼ぶなんてすごい勇気だ!」


 次々と我が我がと生徒達が晴斗へ接触する。晴斗の都合などお構いなしだ。


「ちょ、ちょっと待って。俺は聖徳太子じゃないから! 一斉に人の話を聞き取れないからー」


 晴斗は強く訴えかけるが、いかんせん周囲の声が過度に大きい。そのため、晴斗の声は誰にも通らない。


「ちょ、ちょっと。誰か俺の話に耳を傾けてよー」


「俺達は君の味方だ。いじめは何があってもやってはいけない禁忌な行為だ」


 うんっと一斉にその場の晴斗以外の人物が首肯した。まるでロボットのように、一寸のタイミングもずれずに。

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