第40話 体育館に登場

「おう! 仕事の調子はどうだ晴斗」


 18時30分。どの部活も終了時間を過ぎる。男子バスケ部も例外ではない。


 晴斗は玲香と共に練習の片づけに勤しむ。


「あ! 架純! どうしてここに? 」


「晴斗と一緒に帰宅しようと思ってな」


 にこっとクールに架純は微笑む。


「お、おい。あの風紀委員の雫さんだぞ」


「きれいでかわいいよな~」


「踏みつけられたい」


 男子バスケの部員達は顔を赤くしながら、騒がしくなる。架純が体育館を訪れた事実に興奮する。


「そろそろ片付けも終わるから。ちょっと待ってくれないかな? 」


 モップ掛けをたった今、晴斗は終了させる。後はモップを片付けるだけだ。


「おう! あたしは構わないぞ。玲香も一緒に帰らないか? 」


「いいよ。玲香もそのつもりだったから」


 玲香は笑顔で対応する。


「お、おい。白中」


 バスケ部キャプテンの田中に肩を組まれる。


「はい。キャプテンどうしました? 」


 不思議そうに晴斗は尋ねる。


「お前、雫さんと山本とどういう関係なんだ? 」


 仲睦まじく会話する架純と玲香に田中はちらちら視線を向け続ける。


「え? 大した関係ではないですよ。ただの知人です」


 晴斗は特に言葉を選ばない。実際に、晴斗にとって美少女4人は知人だった。


「お、おう。そうか。そうは見えないが」


 納得は言ってないようだが、田中は晴斗から離れる。


(何だったんだろう? )


 晴斗の胸中に疑問が残る。


「片付けも終了したし、帰ろ白中晴斗君」


「ああ。そうだね」


 玲香の言葉に同意して体育館を退出し、晴斗は帰り支度を始める。マネージャー専用の部室があるのだ。


「じゃぁ、俺達は帰ります。失礼します」


「お疲れ様~」


「「「「お疲れ様っす」」」」


 晴斗は男子バスケ部と挨拶を交わし、架純や玲香と帰路に就く。


「ねぇ。今日はどこか寄って行かない? 」


 玲香の提案に架純と晴斗が賛同する。


「あたしは賛成だ。どこに行くつもりなんだ? 」


「駅近くのカフェだよ」


「あそこか。も行ったことあるぞ」


「そうなんだ。意外」


「甘いものは嫌いじゃないからな」


「晴斗はどうだ? 」


「俺も疲れてるからどこかの店に寄るつもりだったんだよ」


 3人の意見が一致した為、駅前のカフェに向かうことに決定。学校から徒歩10分弱の距離に位置する。


 3人で談笑しながら歩き、目的のカフェに到着する。


「わーい! ここに来たかったの」


 玲香が店内に入るなり歓喜の声を上げる。部活終了後なため、普段よりもテンションが高い。


「ふふ。良かったね玲香」


「うん! 楽しみだなぁ」


「席は空いてるかな? 」


「大丈夫だと思うけど……確認してくるよ」


 晴斗が店員を呼び、3人の空席を確認する。


「問題なさそうだけど、念のため確認してもらってもいいですか? 」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 5分ほど経つと、店員が戻ってきた。


「ご案内致しますのでこちらへどうぞ」


 4人がけテーブル席に通される。窓際の席には陽射しが入り込み心地よい空間となる。


「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」


 店員が立ち去り、メニュー表を開く。ドリンクのページを開きながら、玲香が口を開いた。


「う~ん。迷っちゃうなぁ」


「あたしはこのカプチーノにするよ」


 架純は即決でオーダーを決定する。


「俺はブルーマウンテンかな」


 晴斗も特に考えることなく注文を決める。


「私はココアにしようっと」

 

 玲香も決定したようだ。


 店員を呼び、注文を済ませる。


「白中晴斗君はコーヒー飲めるんだね」


「まぁな。苦味も慣れると癖になるよ」


「ふぅ~ん。今度飲んでみようかな」


 玲香が興味深げに呟く。


「そういえば、白中晴斗君。部活のマネージャーには慣れた? 」


 玲香から話題を切り出す。


「まだ数日しか経ってないからな。全然慣れないよ。でも楽しい部分は多くあるよ」


「それは良かった! バスケ部のマネージャーは楽しいよ」


 玲香が嬉しそうに話す。


「あたしもその点は安心だな。もしきつかったらすぐにでも辞めさせる予定だったからな」


「おいおい。物騒なこと言うなよ架純」


「冗談だよ。半分くらいは本気だったけど」


 架純が悪戯っぽく微笑む。


「さっき、体育館で田中キャプテンに肩を組まれて何か話していたよね? 」


 玲香の質問に晴斗は表情を曇らせる。


「ああ。あれか……」


 晴斗は先程の田中の言葉を思い出す。


「実は架純と山本さんとはどういう関係なんだと聞かれたんだ」


「へぇ~。それでなんて答えたの? 」


 玲香は身を乗り出して尋ねる。


「ただの知人だと伝えたんだけど、納得してなかったみたいだった」


「…」


「…」


 玲香と架純が無言となり、微妙な空気が流れる。


(どうしたのだろう?)


 2人の様子を不思議に思い、晴斗は首を傾げる。


「そ、そうなんだ。私達の関係ってそんな風に見えるのかぁ~」


 玲香は棒読みだ。


「確かに、あたしと晴斗はただの知人の関係なのか? 」


 架純も玲香の言葉に同意する。


「え? 違うの? 」


 晴斗は疑問を口にする。


「ち、違わないけどね」


「あ、ああ。そうだぞ晴斗」


 玲香と架純は慌てて顔を見合わせて笑い合う。まるで誤魔化すように。


(なんなんだ? この反応)


 晴斗は違和感を覚えた。


「お待たせしました。注文の品でございます」


 雑談の最中、注文が届く。テーブルに飲み物が置かれる。


 そこで話は中断となった。


「それじゃあ、乾杯だ」


 架純はグラスを手に持ち、2人に合図を送る。


「何に? 」


「いいから。お疲れの乾杯みたいなものだ」


「「???」」


 架純は晴斗と玲香のドリンクに自分のドリンクをぶつける。カチャンッという音が響く。


「「お疲れ様」」


晴斗と玲香も同じようにドリンクにぶつける。


「じゃ、早速いただこうかな」


「いただきます」

晴斗はブルーマウンテンを一口飲む。


「美味しい」


程よい苦味が晴斗の口内に広がる。


「本当に。甘くておいしいなぁ」


玲香もココアを飲み、笑顔になる。

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