第38話 球技大会

『ついに始まりました。毎年、恒例の球技大会』


 グラウンド内にアナウンスが響き渡る。新緑高校のグラウンド近くには私立の高校がある。さらに、グラウンドから徒歩10分ほどで西大寺駅に到着する。


 話を戻そう。本日は球技大会だ。球技大会は毎年6月中旬に開催され、競技はバレーボールである。1クラスで男女分かれて2チーム作り、学年関係なく試合対戦がある。


 1,2、3年を交えて、トーナメントを最後まで勝ち上がったチームが優勝だ。


 毎年、経験値が高い3年生が優勝する傾向がある。


(いや~。だるいな~。しかも俺のチームって陰キャしかいない。弱いチームなんだよな)

 

 周囲のメンバーを見渡す晴斗。案の定、スポーツができそうな男子は存在しない。


「せ~の。」


「「「「白中晴斗~頑張れ~」」」」


 黄色い声援が晴斗に伝わる。


 音源の方向に視線を走らせると、架純、祐希、千里、玲香が満面の笑みで外野から晴斗に対して手を振る。


「「「「頑張れ頑張れ白中晴斗! 頑張れ頑張れ白中晴斗! 」」」」


 周囲の視線など気にせず、一生懸命に彼女達は晴斗を応援する。


「くそ! なんであいつだけ」


「意味わかんないよな。羨ましすぎる」


 当然、大量の男子達から晴斗はきつい視線を受ける羽目になる。


 クラスメイトだけでなく、他のクラスの生徒達にも晴斗と架純達の関係性が知れ渡る。


「あ、ありがとう」


 無視するわけにもいかず、恥ずかしそうに晴斗は架純達に手を振る。照れ隠しで視線を逸らしながら。


「照れてる姿も可愛い晴君! 」


「そろそろ試合始まるぞ晴斗~」


「手を振ってくれてありがとう白中君! 」


「頑張れ! 白中晴斗君~」


 祐希、架純、千里、玲香の順に各々で考えた声援を晴斗に届ける。


(こんな経験初めてだな。まさか、俺が学校行事で美少女に応援されるとは)


 照れ臭くもありつつ、内心から喜びが溢れる。


 晴斗のチームは非常に弱い。誰も勝利するとは思っていない。そのため自然と応援も受けない。


 だが、現時点で応援してくれる人達が4人もいる。しかも全員が美少女だ。


(俺も期待に応えるために精一杯ベストを尽くさないとな)


 意気込んだ瞬間、タイミングよくサーブが晴斗に目掛けて、飛んでくる。


(よし。これなら取れる)


 晴斗はぎこちないフォームでレシーブする。


「ナイス!」


「キャーーカッコいい~」


 晴斗のナイスレシーブに架純と祐希は興奮を爆発させる。


 千里も玲香も嬉しそうにガッツポーズする。


 味方がトスをする。だが、そのトスは味方に届かず、コートの外にオーバーしてしまった。


「お疲れ! よく頑張ったな! 」


 架純はペットボトルに詰まった500ミリリットルのお茶とタオルを手渡す。


「ありがとう。結果としては惨敗だけどね」


 結果として、晴斗のチームは大敗した。実力差がありすぎた。


「それは仕方がないよ。個人の能力に差があったんだから! それにしてもお疲れ様! 本当に頑張ってる姿はかっこよかったよ! 」


 晴斗を労い、祐希は満面の笑顔を向ける。口調からお世辞では決してない。


「うちは白中君のプレーを写真に収めたくて。スマホで写真撮っちゃた。見る? 」


「玲香も何枚も撮ったから。見てもいいよ? 」


 千里と玲香は晴斗にスマートフォンを差し出す。自由に写真を拝見させてくれるらしい。


「流石に今はいいかな。後でもいい」


 正直、自身の映った写真は見たくない。昔から自身の映る写真を見るのが苦手だった。どうしても自己嫌悪に陥ってしまう。


「わかったよ。強制は良くないからね。それと、せっかくの学校行事だし皆で写真を撮らない? 」


 千里がスマートフォンを掲げながら、楽しそうに提案する。


「ああ。それは名案だな」


「うん。私も賛成」


「玲香もかな」


 架純、祐希、玲香は千里に同意する。


「白中君も大丈夫だよね? 」


「…うん。俺も大丈夫かな」


 断りたい気持ちはある。だが、断れる状況ではない。ここで晴斗が断れば空気は悪くなるだろう。空気を読む必要がある。


「決まりだね。すいません。写真撮ってもらえませんか? 」


 千里は近くの女子生徒にお願いする。快く了承をもらった。


「晴斗は当然真ん中だからな」


(ちょ!? 1番目立つポジションじゃんか)


 晴斗を中心に架純達4人の美少女が集まる。


「準備はいいですか~」


 女子生徒が晴斗達に向けて問い掛ける。


「「「「は~い!」」」」


 晴斗以外の4人が元気に返事をする。晴斗を4人で取り囲んで。


「行きますよ~。はいチーズ」


 パシャ。


 美少女4人は慣れた手つきでピースする。晴斗は4人に倣ってピースする。


 だが、表情は硬い。経験の差がもろに現れた。


「ありがとう。助かったよ」


 感謝の言葉を伝え、千里は女子生徒からスマートフォンを受け取る。


「この写真は後からに送るね。それと、白中君には今から送るから! 」


「それは構わないけど。レインの連絡先交換してたか? 」


「今からするんだよ」


 にこ~っと満面の笑みを振り撒き、千里はQRコードを晴斗に差し出した。

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